どんなビジネスにも生きる「編集力」。プロの編集者はどんな視点で情報をみているのか?

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どんなビジネスにも生きる「編集力」。プロの編集者はどんな視点で情報をみているのか?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

作家や漫画家などクリエイターたちの想いを最初に受け取るのは、一般的には黒子と言われる編集者です。

「自分のアイデアが本当に受け入れられるだろうか?」「もっと良いアイデアはないだろうか?」…常に不安と戦いながら創作活動に勤しむクリエイターにとって、作品が形になるまでの間に編集者との間で行われるコミュニケーションは、時に心の支えになるものです。(「はじめに」より)

編集者の返信術』(宣伝会議編集部 編集、宣伝会議)の冒頭にはこうあります。注目すべき点は、そんな編集者にとって重要な業務として「返信」を挙げている点です。

日々の会話やメールでのやりとり、企画書へのフィードバックなどなど、相手が存在する限り無視できないのが「返信」。それは編集者として相手と向き合い、作品を形にしていくために求められる姿勢やスキル。そしてそれは、編集者のみならずあらゆるビジネスでも生かせるものでもあります。

そこで本書では「返信」をひとつのテーマとし、8名のプロフェッショナル、すなわち編集者に話を聞いているのです。

しかし、そもそも「編集」とはどのような仕事なのでしょうか? そんな“基本”を確認するべく、きょうはCOLUMN1「クリエイティビティを引き出す『編集力』に焦点を当ててみたいと思います。ビジネスに生きる「編集」の考え方について、編集工学研究所の安藤昭子氏が解説したものです。

「編集」はさまざまな分野で求められるスキル

「編集」と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。本や雑誌をつくる編集者の仕事であったり、動画編集や音源編集といった加工作業を想像するかもしれません。

編集工学研究所で考える「編集」とは、こうした職業や作業にとどまるものではなく、とても広い意味を持っています。料理もファッションもスポーツも、AIもゲノムも環境問題も、わたしたちを取り囲む世界はすべて「編集」の対象です。(56〜57ページより)

そして「編集力」を身につけることは、仕事上のパフォーマンスだけではなく、“いかに気持ちよく生きられるか”という人生のクオリティにも大いに関わるもの。こういった広義における「編集」技術や「編集力」という考え方が、昨今はさまざまな分野で注目を集めるようになってきているのだといいます。

それは、見通しの効きにくい世の中にあって、自ら主体的に情報を編集する力が求められているからなのだろうと筆者は分析しています。そんな「編集力」といわれる技能は、情報のインプットからアウトプットまで、思考のすべての工程に関わるものなのだとも。そうした考え方に基づき、ここでは“情報のインプットとアウトプットの間にある、発想力とクリエイティビティのカラクリ”の一端が紹介されているのです。(56ページより)

インプットの作法――固まったものの見方から脱出する

人は多くの場合、“いま自分に見えている側面”から限定的に情報を受け取り、そのなかでとりあえずの認識をしているもの。意図せず自分の見たいように世界を見ているわけですが、そうした固定化された視点こそが、奥に広がる思考の可能性を不自由にしているようです。そして、そこに編集のポテンシャルがあるのです。

編集力とは、ものごとの見え方や捉え方を自由にしていく力です。慣れ親しんだ思考のクセから抜け出て、新しい景色を自在に手に入れる。その最初の一歩は、インプットされた情報を多面的に捉えることです。(58ページより)

情報は常に、情報の背景にあたる「地」と、認識されている情報の図柄である「図」に分けることが可能。「地」となる情報の上に、「図」となる情報が載っているわけです。

たとえば食卓にあるマグカップは、お店にあれば「商品」ですし、台所のシンクにあれば「洗いもの」ともいえます。倉庫にあれば「在庫」ですが、ゴミ捨て場を「地」にすれば「燃えないゴミ」になります。つまり「地」が変わることで「図」が変わる。いいかえれば、どんな情報も必ずなんらかの「文脈」の上に乗っているのです。

この「地」として存在している文脈を見ずに、「図」としての現象だけに囚われていると、視野が固く狭くなっていきます。

よく「自分はアタマが固いから」という言葉を耳にしますが、これは限られた「図」に囚われて他の可能性に目が向きにくくなっている、という状態のことでしょう。

少しの発想の転換でこうした囚われの状態は脱出することができます。そう考えれば「アタマが固い」というのは、その人が持って生まれた特性などではなく、ある時点から陥っている特殊な状態と言えます。(59ページより)

豊かな発想の源泉は誰のなかにもあり、その解放の仕方を獲得することが「発想力を身につける」ということ。そこで、まずは「情報にはたくさんの見え方がある」という前提に立ち、「地」を意図的に切り替えながら情報の可能性を引き出していくべきなのです。(58ページより)

仮説思考でイメージを先導する「アウトプット」

インプットした情報群を新たな意味や価値としてアウトプットするにあたっては、思い切った「仮説」を先行させる必要があるそう。

たしかな「既知」をいかに魅力ある「未知」に転換できるか。人の心を動かすコンセプトは、いい塩梅の「既知」と「未知」を内包しているというのです。

「ありそうでなかった」「知ってるようで知らない」「わかりそうでわからない」というような“上質なモヤモヤ感”が、好奇心やイマジネーションを触発するということ。

「未知」を積極的に取り扱うためには、仮説思考が欠かせません。

「仮置き」や「仮止め」の状態を保留させたままで、可能性を可能性のままに引き連れて、ピンと来る方向に思い切って思考の舵を切るのです。

編集工学では、この仮説先行型の思考方法を「アブダクティブ・アプローチ」と呼び、たいていの仕事はこのアプローチによって斬新に組み立てられます。

普遍的なセオリーから結論を導き出す「演繹法」でもなく、複数の事象から傾向を読み取る「帰納法」でもない、第三の推論と言われる「アブダクション(仮説形成)」が、魅力的なアウトプットに向かうプロセスには欠かせません。(65ページより)

情報を多角的に見て、さまざまなものごとの間に関係を発見し、「既知」に「未知」を取り込みつつ、新たな風景を思い切った仮説として表現していく。そうしたインプットからアウトプットまでのプロセスのすべてに、編集力が関与するわけです。(64ページより)

人とのコミュニケーションは、「マニュアルさえあればうまくいく」というようなものではありません。しかし、編集者の方々のこれまでの経験や、日々のリアルなやりとりを語ってもらうことで、そのノウハウのエッセンスを取り入れることができるのではないか?

本書の根底にはそんな思いがあるようです。どんな職業についていたとしても避けることのできない「返信」の本質をつかむために、本書を参考にしてみてはいかがでしょうか?

Source: 宣伝会議

メディアジーン lifehacker
2023年8月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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