考える力を伸ばすために求められる「問う力」。思考の質をあげる「問い」とはなにか?

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問うとはどういうことか

『問うとはどういうことか』

著者
梶谷真司 [著]
出版社
大和書房
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784479394105
発売日
2023/08/11
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

考える力を伸ばすために求められる「問う力」。思考の質をあげる「問い」とはなにか?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

問うとはどういうことか 人間的に生きるための思考のレッスン』(梶谷真司 著、大和書房)の著者は本書の冒頭において、2000年代初頭の日本で「ゆとり教育」が本格化したことを引き合いに出しています。ずいぶん昔のことのようにも思えますが、ともあれあの時期を境に思考力の育成が重視されるようになったわけです。

その後、ゆとり教育からは方向転換したものの、思考力を育てる方針は変わっておらず、しかも「いまの子どもは考える力がない」ということが大前提になっていたりもします。しかし当然のことながら、考える力が弱いのは大人も同じ。人生経験の長短にかかわらず、日本の社会全体に見られることなのです。

では、思考力育成の必要性が唱えられてから40年が経過したにもかかわらず、なぜ考える力は一向に育てられないのでしょうか?

その原因の一つは、間違いなく大人も考える力がないからであり、どうすればそれを育てられるか分からないからだ。

考えることは問うことに基づいている。考えが漠然としているのは、問いが漠然としているからだ。具体的に考えるためには、具体的な問いを立てなければならない。問いの質と量が思考の質と量を決める。要するに、考える力をつけるために重要なのは「問う力」である。(「はじめに」より)

そこで本書において著者は、“「問う」とはどういうことなのか”に焦点を当てているのです。とはいえその目的は、勉強や仕事で成果を上げて成功者になることではないようです。つまり、ビジネス書とは異なるアプローチをしているということ。

具体的には、「問う」ことが私たちの人生においてどのような意味を持つのか、なんのために、なにを、どのように問うのかについての考え方を明らかにしているのです。

きょうは第1章「問うことは、なぜ重要なのか?」内の「問うことには、どういう意味があるのか?」に注目してみましょう。

問うという行為は…(1)好奇心の表れ

知りたいことや理解したいことがあるとき、私たちは問いかけをします。根底にあるのは「好奇心」と呼ばれるもので、すなわちそれが満たされることこそが喜びだということ。

そんな好奇心は、問うことのもっともポジティブな形であり、知的好奇心と対人的好奇心の2種に分かれるそうです。それぞれを確認してみましょう。

「知的好奇心」とは

著者いわく、知的好奇心は、広い意味での学びの源。たとえば宇宙に興味を持った子どもが太陽系の惑星について詳しく知りたがったり、ブラックホールの不思議に思いをはせたりすることがそれにあたるわけです。

また、学校でリサイクルの現状について教わったら、「リサイクルは実際にどのように行われているのか?」「リサイクルにはどのような技術が使われ、どのように再利用されるのか?」など、いろいろなことが気になるかもしれません。

もっと日常的なことでも同じで、ピザが好きな人なら、「どこでどんなピザが食べられているのか?」「いつごろピザが食べられるようになり、それ以前のイタリアではなにを食べていたのか」を知りたいと思う可能性もあります。

ゲームが好きなら、どうやったら攻略できるのかをネットで調べたり、攻略本を買ってきて読んだりするということも考えられます。また、どんなゲームがおもしろいか、新しいゲームはなにか、友だちはどんなゲームをやっているのかも知りたくなるでしょう。

こうしたことからわかるように、知的好奇心は特定のテーマについていろいろなことを知ろうとする欲求であるわけです。

「対人的好奇心」とは

誰かと出会い、一緒になにかをする。話、遊ぶ、仕事をする。そういったさまざまな他者との関係において、相手のことを知りたいと思う気持ちが対人的好奇心

最近知り合った人に好意を持ったとしたら、「どこで生まれ育ち、普段どんなことをしているのか?」「なにが好きで、なにが嫌いなのか?」「自分のことをどう思っているのか?」など、その人のことをいろいろ知りたくなるはず。あるいは直接の知り合いではなくても、自分が好きな芸能人などについて知りたくなることもあるでしょう。

家族や友だちなど、すでによく知っている人についても、「きょうは何時に帰ってくるの?」「夕食はなにが食べたい?」「週末は空いてる?」「その服、どこで買ったの?」というように、日常的に小さなことを知ろうとするものです。ましてや普段と違うことがあれば、疑問を持たずにはいられないものでもあります。

こうした問いは、相手に対する関心。関係を結ぼう、続けようとする気持ちの表れだということです。つまり好奇心とは、物事に対してであれ、人に対してであれ、自ら関わろうとする意志だということ。それは、この世界で生きる原動力にもなるため、私たちにとって欠かせないものであるわけです。(26ページより)

問うという行為は…(2)違和感の表れ

世の中は、必ずしも平穏無事だったり、善意に満ちているとは限りません。さまざまな悪意も愚かさも、不条理もあるからです。そういうものに出会えば腹も立つでしょうし、つらく悲しくなったり、不安になることもあるでしょう。

どれだけ順応しているように見えても、なにかしっくりこないとか、合わないとか、いろいろな違和感を抱き、疑問を感じているわけです。しかし、それを口にするのは難しいことでもあります。場合によっては人間関係に悪影響を及ぼす可能性もあるからです。

そのため私たちは違和感を覚えたとしても、ときにそれを抑え込み、平気なふりをして生きたりもします。そうやって表面的にであれ順応していれば、それはそれで幸せに暮らしてはいけるから。

とはいえ、違和感と共に生きるのは、悪いことではない。むしろ当たり前のことだ。この世は自分のためにできているわけではなく、自分と世界の間には必ずズレがある。その違和感が疑問となって現れる。

だから物事に疑問をもつのは、自分が生きるそのままの現実に出会うことであり、言わば、自分の“存在証明”である。私たちは問うことではじめて、自分の人生を生きることができるのだ。(30ページより)

問うことは誰にとっても重要ではあるものの、難しく勇気のいることでもあります。だからとりあえずは、なんであれ疑問を持てばいいのだと著者はいいます。ただし、それがトラブルにつながることもあるのも事実。

したがって、少しずつでも“適切に問える”ようになるのがいいそう。そのために、問うとはどういうことなのか、より深く理解する必要があるわけです。(30ページより)

「問う」ことについての理論的なことから、実践的なワーク、問い進める方法などを幅広く扱った一冊。瞬間的な感情をSNSで発信してしまえるような時代だからこそ、本書を通じて「自分に問いかける」ことの価値を改めて認識したいところです。

Source: 大和書房

メディアジーン lifehacker
2023年8月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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