日本企業が米中に勝つために知るべきは「東南アジアのDX事情」だといい切れるわけ!

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デジタル・フロンティア

『デジタル・フロンティア』

著者
坂田 幸樹 [著]
出版社
PHP研究所
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784569855646
発売日
2023/08/28
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

日本企業が米中に勝つために知るべきは「東南アジアのDX事情」だといい切れるわけ!

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

著者によれば、『デジタル・フロンティア 米中に日本企業が勝つための「東南アジア発・新しいDX戦略」』(坂田幸樹 著、PHP研究所)のテーマは「デジタル・フロンティアで起きているイノベーションから、日本が変革するためのヒントを得ること」なのだそう。

しかし、ここでいうデジタル・フロンティア、すなわち「デジタルの最先端」とは米国や中国をではなく「東南アジア」なのだとか。もちろん米国や中国がデジタルの最先端であることは間違いありませんが、「私たち日本人が学ぶべきことがどれだけあるのか」という観点で考えた場合、東南アジアから学ぶことのほうが圧倒的に多いというのです。

重要なポイントは、変革を阻む多くの既得権益をデジタルの力で見事に突破する事例が、東南アジアに数多く現れているという点。

本書で扱う東南アジアの先端事例は、いわば「ボトムアップのイノベーション」だ。ただ単にデジタル技術を使うのではなく、現場の地道なオペレーション改善を通してデータを取得し、そのデータの力を使って既得権益を壊し、産業全体の変革を起こしているというものである。(「はじめに」より)

具体的には、シンガポールのスワット・モビリティ(SWAT Mobility)、インドネシアのゴジェック(Gojek)などであるようです。それらの企業は米国のGAFAMや中国のBATといった巨大プラットフォームではないものの、地域に根差したボトムアップによるイノベーションによって、社会を確実に変えつつあるというのです。

だからこそ、東南アジアと同じく既得権益に縛られている日本にとっても、GAFAMやBAT以上に参考になるわけです。

ちなみに2013年にシンガポールに拠点を移し、東南アジアを拠点に活動している著者は本書の冒頭で、「DX」の意味を問いなおしています。なぜならそれが、東南アジアのイノベーションに大きく関わっていることは間違いないから。

そこできょうは、DXの本質に焦点を当てた第1章「『改善』だけではDXにはならないーー東南アジアのデジタルイノベーション」に焦点を当ててみましょう。

DXの本当の意味とは「イノベーションを起こすこと」

いうまでもなくDXとは、デジタル技術を使ってイノベーションを起こすこと。にもかかわらず、多くの企業ではそれがストラテジーやオペレーションのレベルにとどまっていると著者は指摘しています。そもそも、イノベーションとストラテジー、オペレーションの違いを混同している人が多いのだとも。

オペレーションとはすでにあるものを改善することであり、ストラテジーはやり方を変えること、そしてイノベーションはより大きな変革を起こすことである。(63ページより)

同じ行動であっても実施する組織によってどのレイヤーに該当するかが異なるため、厳密にレイヤーを定義するより、こうしたレイヤーが存在することを意識することが重要だというわけです。(62ページより)

イノベーションとストラテジー、オペレーションの違いは?

そしてそのことを説明するために、著者はここで前述のゴジェックなどインドネシアのスタートアップが起こした「半径5キロ圏内の問題解決」を引き合いに出しています。

まず、ゴジェックは、スマホを使ってバイクタクシーとユーザーをつなげた。

バイクタクシー自体は東南アジアに昔からあるサービスだが、スマホを使うことでユーザーはバイクタクシーを呼びやすくなり、バイクドライバーはユーザーを見つけやすくなった。また、ユーザーからのフィードバックでバイクドライバーを評価することも可能になった。(63〜65ページより)

すなわちこれは、すでにあるオペレーションの改善だということになります。

次にゴジェックは、ヒトだけでなく、モノを運ぶことも始めようとEコマースへの進出を目指した。

ゴジェックは、銀行口座が普及していないインドネシアでも使える新たな決済手段を提供することで、Eコマースを実現した。(65ページより)

これは、パパママショップ(家族や個人が経営するインドネシアの小売店)を巻き込んで、Eコマースという新たな価値を提供したストラテジーといえるわけです。

なお現在は、パパママショップを支援するためのアプリを提供するプレイヤーが出現しているのだといいます。つまりパパママショップの店主は、そうしたアプリを使えば在庫管理や発注をすることができるのです。

これにより、メーカーからパパママショップまで商品を届けるために無数の商社や問屋によって多層化されたサプライチェーンを介さずに商品を仕入れることができる。これは、既得権益者を打破して社会を変革するイノベーションである。(65ページより)

ほんの一例であるとはいえ、ここにははっきりと、本当の意味でのDXのポテンシャルが表れているのではないでしょうか? しかしその一方、日本企業においてDXと呼ばれているものの多くは、このうちの“オペレーション”のみにとどまってしまっていることが非常に多いと著者はいうのです。

たとえばタクシーに非現金決済を導入したり、スマホを使ってタクシーを呼べるようにしたりすることも経営上は重要。とはいえそれはあくまで“デジタル化によるオペレーション改善”にすぎず、DXとはいえないわけです。

東南アジアでさまざまなスタートアップが立ち上がっているのは、まさにデジタル技術がイノベーションを促進させているからに他ならない。デジタル技術によって事業を展開するための基礎的なインフラが、すでに整備されているからである。(69ページより)

私たち日本人は、そうしたところから視点や考え方を改めるべきなのかもしれません。(63ページより)

従来の既得権益に縛られることなく、新たなイノベーションを引き起こすことは、日本のビジネスパーソンにとっての喫緊の課題。だからこそ本書を通じ、東南アジアのポテンシャルを実感し、参考にしたいところです。

Source: PHP研究所

メディアジーン lifehacker
2023年9月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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