『初恋、ざらり』最終回目前! ドラマ化記念対談 原作者・ざくざくろ×主演・小野花梨

対談・鼎談

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『初恋、ざらり』最終回目前! ドラマ化記念対談 原作者・ざくざくろ×主演・小野花梨

[文] カドブン

取材・文=野本由起

■『初恋、ざらり』ドラマ化記念対談

軽度知的障害と自閉症のある上戸有紗は、自分に自信が持てず、男性から必要とされると拒めない。そんな彼女が、アルバイト先の運送会社の社員・岡村さんに恋をして……。

SNSで話題を呼び、「このマンガがすごい!2023」にランクインした『初恋、ざらり』。2023年7月からテレビ東京系「ドラマ24」でドラマ化され、こちらもふたりの揺れる関係性に注目が集まっている。
テレビ東京系にて9月15日(金)に11話が、そして9月22日(金)に最終話の放送が予定されるなか、『初恋、ざらり』作者のざくざくろさんと、ドラマで有紗を演じる小野花梨さんの対談が実現! 有紗の人物像について、キャラクターの作り方・演じ方について、語り合っていただいた。

©「初恋、ざらり」製作委員会
©「初恋、ざらり」製作委員会

■見た目では障害とわからないがゆえの苦しさや感情を描きたい

小野花梨さん(以下、小野):ざくろ先生とは、撮影現場でお会いして以来ですよね。お久しぶりです。

ざくざくろ(以下、ざくろ):撮影現場を見学した時は、現実感がなくてずっとフワーッとしていました。またお話しできてうれしいです。

小野:有紗役をいただいてから原作を読んだので、「ここはどうやって表現しよう」と思いながら読んだ部分もありましたが、吹き出してしまうくらいコミカルなシーン、胸がキューッとなる程キュートなシーンも多くて、ポップで読みやすいんですよね。有紗の愛らしさや一生懸命さ、岡村さんの包容力や不器用さがとても素敵で、読みながら共感と愛情が芽生えていきました。後半に向けて有紗の悩みが深まっていきますが、プロデューサーさんとも「『初恋、ざらり』のこのポップさを忘れないようにしよう」と話したのを覚えています。そもそもざくろ先生は、どういう発想からこの作品を描いたのでしょうか。

ざくろ:私には発達障害や軽度知的障害の友人が多いので、自分が見てきた世界を描こうと思いました。軽度知的障害で自閉症の女性を主人公にしたのは、見た目からは障害があるとわからないがゆえの苦しさや感情を描きたかったからです。

小野:ざくろ先生と有紗を重ねて描かれたのですか?

ざくろ:有紗のコアの部分は、私の若い頃に似ているかもしれません。コアだけが一緒で、顔、性格、体験してきたこと、障害に対するスタンスは全部違うんですけど。

小野:そうなんですね。私は今までも原作ものの実写版に出演させていただくことがあったのですが、実は原作者の方とこうしてちゃんとお話しさせていただく機会がなかったのでお聞きしたいことが沢山あります! 早速ですが、ドラマをご覧になってどう思われましたか?

ざくろ:最初は、原作と違うものになるんだろうと思っていたんです。でも1話を観て、「あ、マンガがドラマになってる!」とびっくりしました。ドラマオリジナルのシーンも、俳優さんもスタッフさんも『初恋、ざらり』の世界観を大切にしてくださっているので、「これなら大丈夫」と安心して身をゆだねています。

©「初恋、ざらり」製作委員会
©「初恋、ざらり」製作委員会

小野:原作の淡くてざらりとした雰囲気を残しつつどう実写化するかを大きな課題の一つとしてみんなで意見を出し合いながら撮影を進めていったのでそう言っていただけるととても嬉しいです。

ざくろ:小野さんの演技も、有紗が乗り移っているかのようでした。実を言えば、私は普段全然テレビを観ないんです。とても失礼なことに、小野さんのことも存じあげなくて。有紗を小野さんが演じてくださると知って、画像を検索して「あ、かわいい方だな」と思ったんですね。でも、作品によって全然違う人に見えて、「え、どんな人なんだろう」と思いました。

小野:よく言われます(笑)。顔が薄いので、服や髪型で印象が変わるタイプなんでしょうね。有紗は、メイク部さんや衣装部さんが見た目もかわいくしてくれてありがたかったです。

ざくろ:有紗がネックレスをグリグリ触るシーンがあって、お芝居の細かさ、そのリアルさに感動しました。どうやって細かいところまで役柄を突き詰めていったのでしょうか。

小野:原作はマンガなので、会話のスピードやトーンに正解がありませんよね。だから、最初の数話はすごく悩みました。今のは理解速度が早すぎたかな、今のは理解度が高すぎたかな、など実践しながら少しずつ外堀を固めていきました。

でも、収録が半ばを過ぎた頃から、自分の中に有紗という人間が“いる”ような気持ちになったんです。理屈では説明できない感覚ですが、ざくろ先生が作り上げた有紗という人物は、そういう不思議な引力を持っているキャラクターだったなとあらためて感じています。ざくろ先生の中では、有紗は最初からはっきり見えていましたか?

ざくろ:1話目の1コマ目から、有紗のコアはわかっていました。コアさえわかれば、キャラクターがどう動くかもわかるんですよね。

小野:原作を読んでいて、有紗の自己肯定感の低さはお母さんとの関係も影響があるんじゃないかと思いました。有紗の友達の友ちゃんは、有紗よりも障害が重いですが、ご両親が友ちゃんにすごく愛情を注いでいるから有紗よりもカラッとパワフルに描かれているのかなと。キャラクターを描くうえで、家庭環境の対比は意識されましたか?

ざくろ:そうですね。意識というか「友ちゃんの性格だったら、こうやって生きてきて、こういう親がいるだろう」ということがバーッと頭に浮かぶんです。

小野:「家庭環境の対比を描こう」というプランが先行していた訳ではなかったんですね。私も幼少期の環境が、人格形成に大きな影響を与えると思っているので、役を演じるにあたって、「この子はどんな親に育てられたんだろう」とまず考えます。

©「初恋、ざらり」製作委員会
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■立場がどれだけ違っても、感情を描けば共感が生まれる

ざくろ:私からも質問していいですか? 私は初対面の方とお会いすると、人間臭いパーソナルな部分に目が行く方なんです。でも、小野さんは最初から“俳優・小野花梨”という感じでした。素の小野さんは、どういう方なんだろうと思ったんです。

小野:核心を突かれたようでドキドキします(笑)。私は人にお会いすると、「こういう家庭環境だったのかな」「こういうコンプレックスがあるのかな」と勝手に分析してしまうんです。だからこそ、逆に自分自身はどこにもカテゴライズされないように、無意識に装っているような気がします。そうやってカッコつけて自分を守っているんでしょうね。ざくろ先生も、誰かとお会いした時、「こういう人だろうな」とカテゴライズすることはありますか?

ざくろ:あります。ただ、会うたびにデータを更新するので、最初の印象で確定することはありません。「こういう人かな」と仮定して、次に会った時に検証して……の繰り返しです。

小野:それは、一種の職業病ですか?

ざくろ:マンガを描き始めたのが7歳からなので、どうなのかな……。ただ、私はコミュニケーションが下手で、昔からよく人間関係で失敗してきたんです。それで人が怖くなったのですが、「人間を知らないから怖いんだ」と思い、小学生の頃から本で勉強するようになりました。生きるために本で学び、学習したことを実践しているだけなので、本当は人間のことを何もわかっていない気がします。

小野:それでも、ざくろ先生はキャラクターを生み出していますよね。私の場合、すでにあるものをどれだけ大きく広げることができるかという仕事なので、0から1を生み出す先生はすごいなと思います。

ざくろ:でも、私は0から1を作っているという感覚がなくて。まったく何もないところから人物が思い浮かぶのではなく、日常を観察する中で生まれてくるものが多いんです。例えばマンガの1話で、有紗がカップ麺についている液体の小袋をうまく破けず、こぼしてしまう場面がありますが、あれも実体験。担当編集さんからも「日常の観察がすべてだ」と言われたので、創作に日常の出来事を混ぜてストーリーを作っているんです。創作のために生活をするのはダメですけど、ちゃんと生活することが大事なのかなと思います。……できてませんけど(笑)。

小野:ハッとしました。この仕事をしていると、ありがたいことに役と常に向き合うことになるのですが、それを何年も繰り返すうちに、「いつか役に立つかもしれない」と新しい趣味を始めたり、「いつかこういう子を演じるかもしれない」と気の合わない友達とも会ってみたり、創作ありきの日常になってしまっている気がします。でも、やっぱり創作のために日常を送るのではなく、日常を丁寧に送る中で創作があるべきだと勉強になりました。

ざくろ:でも、それであんなに素晴らしい演技が生まれるなら、きっとそのやり方が正解なんですよ。私は演技のことがわからないのですが、そもそも役を演じる時は、“自分”があると邪魔なものですか? 自分をなくさないとダメなのでしょうか。

小野:演技論を偉そうに語れる立場ではありませんが、私の場合2パターンあって、ひとつは、自分から派生させていくやり方。自分の感覚や個性のパーセンテージを調整してベースを作ってキャラの個性を追加していく方法です。もうひとつは、心を全てキャラのものにして自分は0にする演じ方。偉そうに語ってますが完璧にできてる自信はありません(笑)。今回の有紗は、まさに後者でした。有紗のように、自分とはかけ離れたコアを持つ人を演じる場合は、少しでも自我があると成立しなくて。自分のコアに近いキャラなら、自分が混ざっても成立するのかなと思っています。

ざくろ:小野さんのコアって何ですか?

小野:ひと言で「こんな人間です」と表現するのは難しいですが、私は基本的に人を傷つけたくないし、自分も傷つきたくない平和主義者だと思います。だからどこかでバランスを取ろうとして取り繕うような瞬間があって。でも、今回の有紗は取り繕わない人でした。言葉を選ばずに言えば、取り繕うことができない。ごまかしのない素直な生き方をしている人。だからこそ、私自身と乖離させないと演じられなかったのかもしれません。

その一方で、有紗には共感する部分も多いんですよね。原作を読んで、そのバランスが本当に巧みだなと思いました。軽度知的障害のある有紗を最初は俯瞰していたのに、いつのまにか有紗と自分を重ねている。しかも、多くの読者がそうやって共感しているのですから、本当にすごいです。

ざくろ:ありがとうございます。感情って性別、年齢、国境を越えると思っているんです。だから、感情を描けば誰もが共感できる気持ちにたどりつけるかなと思いました。有紗は軽度知的障害ですが、「自分もこの気持ち、知ってる」と思ってもらえたらうれしいです。

©「初恋、ざらり」製作委員会
©「初恋、ざらり」製作委員会

■みんながそれぞれの“普通”を目指して生きている

小野:私、有紗を演じて「障害ってなんだろう」って思いました。こんなに共感できるし、こんなに愛おしい。でも、本人としては知的障害があることに劣等感を抱いていて……。

ざくろ:私は、知的障害者も“普通”と言われる人にも、同じ感情があることを描きたいなと思っています。

小野:みんな感情の根源は同じで、アウトプットが個性的であるがゆえに、いわゆる“普通”から外れて見えるということですね。

ざくろ:そうだと思います。

小野:人間って、理解できないものに恐怖心を抱きますよね。「怖いな」「わからないな」と思うと、理解する努力ができなくなるイメージがあります。でも、根源的にはきっとわかり合えるし、そう信じている人間がいないといけないんじゃないかと思います。『初恋、ざらり』は、わかり合えると信じさせてくれる作品だなと思いました。

ざくろ:私自身は、何かメッセージを伝えたいとは考えていなくて。エンタメとして読んでもらい、「こういう世界があるんだ」と思ってもらえたらいいのかなと思います。そうすれば、自分のコミュニティで障害をお持ちの方と出会ったとき、なんとなく理解できますよね。

小野:そうですね。今の話に関連して、もうひとつ聞きたいことがあります。有紗も岡村さんも“普通”って何だろうとずっと考えていますが、ざくろ先生が考える“普通”って何だと思いますか?

ざくろ:私にとって、“普通”は憧れでした。“普通”になりたいと思っていたし、以前はみんなありのままに生きて“普通”の水準に達しているんだと思っていたんです。でも、今は「みんなが考える“普通”に、みんなが頑張って近づこうとしているんだな」と思うようになりました。

小野:とってもよくわかります。実際、“普通”の人っているのかな。きっと、みんながそれぞれの“普通”を目指して生きているんでしょうね。そう考えると、“普通”って実体がないですよね。人間ってみんな“変”だし、みんな“普通”。“普通”ってあってないようなものかなと思います。

ざくろ:最後に、ドラマについて聞いてもいいですか? 小野さんがこれまでで印象に残っているのは、どんなシーンでしょう。

小野:ハンバーグを作るシーンがお気に入りです。作品の中盤は、全12話の中でも幸せでポップな時間が流れているんですよね。それ以降は、気持ちのすれちがいが起きてつらい展開になっていくので、ここでざくろ先生が描かれた『初恋、ざらり』のポップさをしっかり残しておこうと思って、いろいろと遊びを入れました。有紗のキュートさが詰まった愛らしいシーンになったのではないかと思い、ニヤニヤしながら放送を見ました。

ざくろ先生が産み落としてくださって沢山の方に愛されているこの『初恋、ざらり』を、作り手皆が同じように愛し大切にドラマ化させていただきました。原作がお好きな方、ドラマを応援してくださっている方には最終回までぜひ見守っていただきたいです。

ざくろ:私は一視聴者として、みなさんと一緒に楽しみたいと思います(笑)。

■プロフィール

小野花梨
俳優。1998年、東京都生まれ。2006年、ドラマ『嫌われ松子の一生』でデビュー。近年の出演作は、ドラマ『カムカムエヴリバディ』『罠の戦争』、映画『プリテンダーズ』『ハケンアニメ!』など。現在、出演映画『Gメン』が公開中。

ざくざくろ
マンガ家。X(旧Twitter)で連載した『初恋、ざらり』が話題になり、単行本化。他の著書に『痩せてる女以外生きてる価値ないと思ってた。』『夫はわたしじゃいけないの?』など。最新作『クリオネの初恋』をXで発表している(現在休止中)。

KADOKAWA カドブン
2023年09月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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