『どう生きるか つらかったときの話をしよう 自分らしく生きていくために必要な22のこと』
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40代、宇宙飛行士の野口聡一さんが「人生をコントロールできていない」と気づき見なおしたこと
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
ご存知のとおり、『どう生きるか つらかったときの話をしよう 自分らしく生きていくために必要な22のこと』(野口聡一 著、アスコム)の著者は宇宙飛行士。
華々しい経歴の持ち主だという印象を受けますが、現在に至る過程においては「これから自分はどこへ向かっていけばいいのか」と方向感を失ってしまったのだそうです。
40代半ばから50代半ばまで約10年間続いたその期間は「つらいことだらけの時代」だったのだとか。また、その苦しみの根本的な原因は、「自分はどういう人間なのか」「自分が本当にやりたいことはなにか」といったことを、他人の価値観や評価を軸に考えていた点にあったとも振り返っています。
「宇宙飛行士になりたい」「宇宙に行きたい」という目標は、もちろん、自分自身で決めたものですが、宇宙飛行士になる過程でも、宇宙飛行士になってからも、僕は常に他者と比較され、他者に評価され、他者から与えられた目標・ミッションを追いかけ、他者の思惑や組織・社会の事情に左右され、自分自身でコントロールできる部分はほとんどありませんでした。
また僕自身、自分の内面としっかり向き合ったうえで、「自分はどういう人間なのか」「宇宙に行った後、どうしたいか」を考えたことはありませんでした。(「はじめに」より)
これは宇宙飛行士に限らず、すべての社会人が直面する苦悩ではないでしょうか? 著者自身、「宇宙飛行士に限らず、誰にとっても、後悔なく生きるのは難しいこと」だと認めています。
そこで、宇宙で学んだこと、苦しみの10年間に学んだことを踏まえたうえで、「人間にとって、アイデンティティとはなにか」を正面からとらえ、本書を執筆したのだといいます。
きょうは第2章「後悔なく生きるために大事にすべきこと」のなかから、「自分自身でアイデンティティを築く3つのステップ」に焦点を当ててみたいと思います。
ステップ1:「自分の価値と存在意義」を自分で決める
自分一人でアイデンティティを築くためにまず大事なのは、過去の自分の価値観を見直し、「自分の価値と存在意義は自分で決められる」と理解することです。(95ページより)
私たちは子どものころから社会のなかで生き、相対評価にさらされ、無意識のうちに他者の価値観や評価、他者との関係性、他者から与えられた役割などによって自分の価値をはかっています。そうすることによってアイデンティティを築き、他者から与えられた目標に向かって努力するように教育されているわけです。
たとえば親や教師など、大人たちのいいつけに素直に従ったり、まわりの人の役に立つようなことをしてほめられたり。仕事での成功などにもあてはまりますが、そうした体験によって承認欲求が満たされると、人はどんどん「他者から認められ、ほめられ、うらやましがられること」に価値を置くようになってしまうはず。
人間が社会的な生き物であり、他者と関わって生きている以上、それは当然のこと。しかし他者が与えてくれるものだけに基づいて自分のアイデンティティを築き、自分の価値を信じ、人生の目標やミッションを決めてしまうと、いつまでも自分自身と向き合うことはできないでしょう。
その結果、「自分が本当はどんな人間なのか」「本当に果たすべきミッションはなんなのか」を知ることができず、いつか行き詰まりを感じてしまうことになってしまうかもしれません。
しかし、自分一人でアイデンティティを築き、他者の評価とは関係なく好きなこと、できること、大事なことを見出し、「自分はこうありたい」といった、向かうべき目標や果たすべきミッションが見つかれば、一時的に他者とのつながりが切られたり、他者から目標や役割、評価などが得られなくなったりしても、自分自身を頼りに、前を向いて歩いていくことができます。(101ページより)
自分が納得して得たものは、誰からも侵食されず、奪われることもないということです。(94ページより)
ステップ2:自分の棚卸しをし、最後に残るものを見極める
自分一人で自分のアイデンティティを築くうえで、次に大事なのは、自分の棚卸しをすることです。
ちなみに、自分の棚卸しをするというのは、社会的な地位や役割、収入、他者との関係性、他者の評価など、それまでの自分にとってもっとも大事だと思っているもの、それまでの自分のアイデンティティを形成していた「他者から与えられたもの」からいったん離れることです。(103ページより)
他者から与えられたものは、いつか必ず失われていきます。だからこそ、それらが失われ、困ってしまう前に、自分で一度、棚卸しをしておく必要があるということ。
他者から与えられたものをすべて失ったとしても、自分のなかに残るものは必ずあるもの。それこそが、自分ひとりでアイデンティティを築く際に核となるものなのです。したがってそれは、どのような状況においても自分の支えになってくれるはず。(102ページより)
ステップ3:これまでの選択、人生に意味づけをする
「自分の価値と存在意義は自分で決められる」ことを理解し、自分の棚卸しを行ったら、次に行うべきことは、これまでの選択や人生に意味づけをすること、自分自身や自分の経験を絶対評価によってとらえ直すことです。(113ページより)
他者の評価や相対的な評価から離れ、絶対評価に基づいて自分の物語に意味づけをしていく。そうすれば自分自身を肯定し、アイデンティティを自分で築き、自分の価値や人生の目標、果たすべきミッションを見出せるようになるわけです。
ひとりひとりの人生には、なんらかの「絶対的な価値があること」が数多く存在しています。たとえば仕事に取り組むなかで考え抜いたことや、得られた技術などもそれにあたるでしょう。
それらはいずれも、誰にも奪われず更新もされず失うこともない、あなただけの唯一無二の体験です。(115ページより)
それこそが、自分を自分たらしめるもの、自分の人生や存在に価値や意味を与えるものであり、今後生きていくうえでの安心材料となるものでもあるということです。(112ページより)
自分自身の心、あるいは人生に向き合っていくのは、もしかしたら宇宙へ行くよりも困難な旅かもしれないと著者はいいます。
しかし、私たちはその旅を通じて自身のアイデンティティを築き、「どう生きるか」についての方向性と、果たすべきミッションを決めることができるのも事実。そこで本書を参考にしながら、自分だけにしか持ち得ないアイデンティティを確立したいものです。
Source: アスコム