『スポーツの日本史』
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<書評>『スポーツの日本史 遊戯・芸能・武術』谷釜尋徳(たにがま・ひろのり) 著
[レビュアー] 澤宮優(ノンフィクション作家)
◆楽しみ方の手掛かり
来年のパリ五輪を控え、スポーツの意味を考える格好の一冊が出た。
日本の古代から江戸期までの遊戯や武術によって、わが国独自の文化が作られ、これを土台に文明開化で西洋スポーツが発展したことが明らかになる。
投げ槍(やり)や弓矢は、武士の騎射(うまゆみ)競技(流鏑馬、笠懸、犬追物)に発展する。貴族文化では打毬(だきゅう)や蹴鞠(けまり)が行われ、相撲は人気ゆえに力士が生まれ、興行する「勧進聖(かんじんひじり)」が現れる。スポーツビジネスの萌芽(ほうが)である。
泰平の江戸期には、弓の競技会も開かれ、武術は殺傷能力より型を追求し、防具の発案によって競技化する。これらに近代スポーツとの類似点が見られる。
日本のスポーツ前史と呼べるが、著者は述べる。《日本のスポーツ界の行く末を占う意味でも、日本列島で脈々と受け継がれてきたスポーツの楽しみ方は、現代を生きる私たちに大きな手掛かりを与えてくれる》
体罰、薬物疑惑など根深い問題のあるスポーツ界だが、いま著者の言葉に耳を澄ませ、そのありようを考えてみたい。
(吉川弘文館・1870円)
1980年生まれ。東洋大教授。著書『江戸の女子旅』など。
◆もう1冊
『ドーピングの歴史』エイプリル・ヘニング、ポール・ディメオ著、児島修訳(青土社)