「“映画作りが楽しい”と思えることが何より大事」 映画「OUT」品川ヒロシ監督インタビュー

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「“映画作りが楽しい”と思えることが何より大事」 映画「OUT」品川ヒロシ監督インタビュー

[文] カドブン

フレッシュな俳優陣とともに青春アクション映画「OUT」を作り上げたのは品川ヒロシ監督。中学時代からの友人である原作者・井口達也の大ヒット漫画を映像化した渾身の青春映画がいよいよ公開される。不良時代の実体験も踏まえ、アウトローの熱い生きざまを描いてきた品川監督にインタビュー。その言葉には、映画作りそのものへの溢れんばかりの愛情があった。

取材・文 河内文博(アンチェイン)

「“映画作りが楽しい”と思えることが何より大事」 映画「OUT」品川ヒロシ...
「“映画作りが楽しい”と思えることが何より大事」 映画「OUT」品川ヒロシ…

■映画「OUT」品川ヒロシ監督インタビュー

■品川ヒロシ監督の脚本術

――品川ヒロシ監督の新作「OUT」はアクション満載のパワフルな青春映画でした! まず今回の映画化はどのように動き出したのでしょうか。

品川ヒロシ監督(以下、品川):そもそも「OUT」という漫画の原作者の井口達也は、僕の中学時代からの友達なんです。僕の実話をもとにした小説を映画化した「ドロップ」(2009年)という監督デビュー作がありまして。井口達也役を水嶋ヒロくんが演じてくれた作品ですが、ちょうど映画化のときに本人に久々に再会したんですよね。それがきっかけで、時を経てまた一緒に遊んだりする中で、「ドロップ」がヒットしたからか達也がブログや本を書き始めた(笑)。現在では、「OUT」以外もさまざまな作品を漫画原作者としてやっている彼ですが、10年くらい前にふと「俺の原作も映画にしてくれよ」と言われたことがあったんです。今回はそれが実現した形ですね。

――漫画「OUT」は、その井口先生が原作、漫画家のみずたまこと先生のタッグで12年に連載が始まった作品ですが、監督は原作漫画を最初に読まれた際、どんな点に魅力を感じましたか。

品川:達也は、もともと「OUT」というエッセイ的な自伝を書いていて。その話の舞台は昭和なんです。けれど、漫画の「OUT」では、物語の舞台を現代に移しています。なので、達也の経験がもとではあるけれど、みずた先生が新しい世界観で、ある種ファンタジーとして作り上げている。そこがおもしろいと思いました。

――映画化にあたり、原作のお二人とはどんなディスカッションをされたのでしょうか。

品川:達也には「お前の好きにやっていい」と言われましたし、みずた先生からも「映画は監督のものなので」とおっしゃっていただきました。ですが、みずた先生には僕から「いや、脚本を読んでいただいて思ったことを聞かせてください! 納得いただけるまで何度でも書き直します」とお伝えしました。結果、脚本は7稿くらい重ねたと思います。そこは自分でも納得し、原作サイドのみなさんも納得できる脚本にしたかったんですよね。

――原作へのリスペクトが伝わります。品川監督は映画「ドロップ」から始まり、近年はWOWOW連続ドラマ「ドロップ」(23年)まで、自身の全ての演出作で脚本も手掛けられています。今回はどんなことに力を割いて執筆されたのでしょうか。

品川:僕は脚本を書いていくなかで、こういうふうに撮りたいというのがどんどん湧いてくるタイプなんです。とくに今回は原作漫画にある人間関係を大切にしたいという思いもあって。原作5巻くらいまでを映画に落とし込むにあたり、ストーリーやキャラクターをちょっと調整したりしても、原作の人間関係は変えたくなかった。そこは大事にしました。

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――キャラクターも、よりくっきりと個性付けされていたように感じました。とくに主人公の達也(倉悠貴)は保護観察中ゆえ、暴力を振るえば一発アウトなのに、キレやすい不良というキャラクターがおもしろかったです。彼が喧嘩への衝動に抗う姿を主演の倉さんが体現されていて、素晴らしかったです。

品川:ありがとうございます。達也の喧嘩への衝動に関しては、最初は少年院に戻りたくないというだけの理由だったのが、居候先のおじちゃん(杉本哲太)、おばちゃん(渡辺満里奈)に迷惑をかけたくないから、暴力の衝動に耐えるという意識にスライドしていくんです。けれど、新たに知り合った暴走族「斬人」の奴らは、昔の自分のように喧嘩に明け暮れている……。倉くんは、その鬱屈や変化を目で表現してくれて。我慢や後悔の中を生きる達也の姿は本当に作品の核になってくれました。

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――なるほど。伝説の不良・達也は居候先の焼肉屋で住み込みで働き、ひょんなことから暴走族・斬人の副総長・安倍要(水上恒司)の友人となって、斬人の敵対チーム「爆羅漢」との抗争の渦に巻き込まれてしまいます。

品川:達也は短気だし、すぐ怒って周りをぶっ飛ばそうとしちゃうバカ。一方、爆羅漢トップの下原一雅(宮澤佑)はクスリを売ろうとしたり、人の道を外れているクズ。なので、この作品ではバカとクズを分けているんです。それも僕なりのこだわりで、その境がしっかりないと、観ている方は達也を応援できないと思ったんです。

――なるほど。主人公が直接的な喧嘩を、これだけ回避して我慢を重ねる姿は、これまでの不良映画とは一線を画す感じがしました。

品川:やはり、腹が立ったら殴って、仲間がさらわれたら助けに行って……というのではこの映画は成立しないと思いましたから。約2時間の尺を通して描くべきテーマが必要だし、今回は「我慢」がキーワードだったと思います。そこまで考える中で、ようやく脚本を書き始められました。

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■アクションへの強いこだわり

――その「我慢」を続けるキャラクター像は、品川監督がこれまでご覧になってきた映画が投影されていたりするのでしょうか。

品川:我慢ということで言えば、ブルース・リーの映画もそうだし、クリント・イーストウッド監督の映画「許されざる者」もそうですよね。でも、冷静に考えると、主人公一人が喧嘩を我慢しているのに、周りの全員が主人公に喧嘩をさせようとして状況を作っているようにも見えちゃう。今回はそこの描き方に気をつけました。ほかに影響を受けた作品というと、とにかく僕は角川大映映画が好きなんです。小学校の頃に「戦国自衛隊」、「セーラー服と機関銃」などの映画を観て、今でもその作品は僕の血になっている。一人の主人公がいて、その周りに仲間が集まって共に闘う……そういう映画が好きなんですよね。なので、今回は僕の小学生時代に観た、角川大映映画を撮ろうという想いもありました。

――そういえば、本作クライマックスの舞台は、建物の階層ごとに、敵のボスが待ち受けるブルース・リーの「死亡遊戯」を連想しました。

品川:それ以外でも、薬師丸ひろ子さん主演の角川大映映画「里見八犬伝」などもモチーフにしています。塔やビルの上に行けば行くほど敵が強くなるって、漫画やゲーム、映画でもありますが、単純にそれをやってみたかったんです。実際、ホンを書いているときも、撮っていてもテンションが上がって最高でした(笑)。

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――(笑)。実際のアクション撮影はどのように進まれたのでしょうか。

品川:まずは撮影に入る前に、キャストみんなにキャラクターそれぞれのアクションのスタイルを説明しました。斬人のメンバーで言えば、長嶋(與那城奨)は剣道、目黒(大平祥生)はボクシングスタイル、田口(小柳心)は柔道、要は喧嘩ファイトでパワータイプ、総長のあっちゃん(醍醐虎汰朗)は圧倒的に人間離れをした動きの最強キャラという感じで、それぞれのスタイルを構築しました。

――では、達也のアクションスタイルは?

品川:人間的に戦うということでしょうね。戦いながらも常におじちゃん、おばちゃん、要や千紘(与田祐希)の想いを背負っている。その人を想って戦うという部分を意識してアクションを作りました。そこで彼の必殺技はロシアンフックにしたんです。ロシアンフックって一種捨て身のカウンターを狙っていくのですが、そこに達也の負けん気の強さが出るし、ぴったりな技になったと思います。

――監督のアクションへの想いには並々ならぬものを感じますが、ご自身はどのように技術や知識を深められたのでしょうか。

品川:いろんな映画を観ることもそうですが、単純に自分でやることですね。よく僕自身がジークンドーを習ったり、MMA(総合格闘技)のジムに行っているんです。この映画でも、僕が日頃教わっている柔術の先生にアクション稽古に来ていただいたり。僕が格闘技をやる理由は、強くなりたいわけでなく、あくまで映画のアクションを考えるため。そうやってジムで身体を動かしていると、映画のカット割りが見えてくるんです。例えば、相手の手を極めて投げ飛ばすシーンがあったとして、その手を掴んだ瞬間や身体の位置が移動した瞬間を見せたいという欲求が生まれて……みたいな感じです。アクションに全く興味のない方がこの映画を観たとき、「よく分かんなかったけど、人が投げ飛ばされてたね……」ということには絶対にしたくなかった。一瞬の身体の動きを映像に入れるだけで、見え方が変わるし、お客さんにキャラクターの痛みが伝わると思っています。

――実際の撮影では、どんな形でキャストにアクション演出を?

品川:振り付けのように覚えるんじゃなくて、「なぜそれをするのか」ということをキャスト全員に大切にしてもらいました。つまり、「動き」よりも「動く理由」がそれぞれのキャラクターにあることを伝えていく作業なのですが、そこを理解してもらうところからアクション稽古を始めていきました。

■「誰からも背中を押されていない」のが重要

――ところで品川監督の作品には、ちょっと情けないところも含めて、根性で戦うカッコ良い男たちがよく登場するように思います。監督ご自身はそうしたキャラクター像を意識的に描かれているのでしょうか。

品川:僕自身は、カッコ良さは追求してないんです(笑)。なぜなら、達也とか斬人の面々ってやっぱり人として間違っていると思うからです。よくヤンキー映画で、「あいつらは殴り合えば分かり合えるんだよ」みたいなわかったふうな大人が急に出てきて、不良たちを勝手に肯定していく場面がありますよね。今回はそういうものにしたくなかった。だから、絶対に大人は不良を助けに行かない話になっています。本作で言うなら、達也は、おじちゃんとおばちゃんが正しいことを言ってるのに、それを捻じ曲げて受け止めちゃう人間。そこは孤独というか、達也は誰からも背中を押されていないキャラクターなわけです(笑)。

――主人公として異色ですよね(笑)。

品川:達也って、斬人総長のあっちゃんに族に入らないかと言われても断ったり、自分の考えで生み出したグレーな道をずっと歩んでいく。ただ、彼が誰にも背中を押されなくても、自立した意志を持つ過程が大事なんですよね。

――お話を聞いていて、主人公像はもとより、監督のこだわりが本作の魅力になっているように感じました。品川監督は、いま映画作りでどんなことを大切にされていますか。

品川:これは僕のポリシーですが、映画に出た役名が付いた人全員に「自分の役、おいしい役だな!」と思ってもらえる映画にしたいんです。逆に「俺、脇役だよね……」とならないように脚本も書くし、演出もして、編集もしています。だいぶ昔の僕の経験談ですが、ある作品で長い説明台詞を覚えても、カメラで抜かれているのが主演の顔で、僕は声だけで、オンエアを観ても後頭部しか写ってなかったことがあったんです(笑)。そのとき、こんなの台本を覚える必要ないじゃんと思って。なので、僕の映画では役者陣にそういう思いをしてほしくないんです。
もう一つはめちゃくちゃ現場を楽しむことに尽きますね。現場では僕がいちばん映画作りを楽しんでいると思います(笑)。

――そういった現場への向き合い方は、監督デビュー作からなのでしょうか。

品川:いえ、一作目のときは無邪気に楽しんでいただけだったと思います(笑)。けれど、いまは意識して楽しんでいます。感動が薄れたとかではなくて、これまでの経験で監督が楽しそうならスタッフ、キャストも現場を楽しんでくれるのがわかったんです。ただでさえ寒かったり、時間がない中、キツいアクションをするのに、監督の怒号が飛び交う現場なんて絶対に限界が来る。僕は辛かったり、ピンチのときに、せめて現場を盛り上げて、監督が「映画作るのって楽しいわ!」と言うことってすごく意味があることだと思うんです。

――素晴らしいですね。本当に品川監督はじめ、作り手の皆さんのエネルギーが伝わってくる映画でした。

品川:僕は美術も衣裳も作れないし、メイクもできないですから、スタッフさんがいないことには映画作りは始まりません。それがここまで映画を作ってきた実感なんです。スタッフが用意してくださったものに、僕が「それ、いいね!」という言葉から始めることで、皆さんすごく頑張ってくださる。そうして、みんなのパワーを一個の集合体にするのが僕の役割。やはり、映画作りはチーム戦なんですよね。これからもスタッフ、キャストとおもしろい映画を作り続けたい。映画監督としての僕ってただそれだけなんです。


■プロフィール

品川ヒロシ しながわ ひろし
1972年生まれ、東京都出身。95年、NSC東京1期生の庄司智春とともに「品川庄司」を結成。お笑い芸人として活躍する一方、俳優、映画監督など活動の幅を広げ、2009年に自身の自伝的小説を原作にした映画「ドロップ」で長編監督デビュー。主な監督映画作品に「漫才ギャング」(11年)、「サンブンノイチ」(14年)、「Zアイランド」(15年)、「リスタート」(21年)などがある。23年には、WOWOW連続ドラマ「ドロップ」の監督・脚本を手掛けている。

KADOKAWA カドブン
2023年11月22日 公開 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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