小橋めぐみ 性とか愛とか
2024/05/01

小5で女性教師に「将来、三角関係で苦労するね」と言われた小橋めぐみ…大人になった彼女と「泣きぼくろ」

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 小学5年生の時、ある女性教師が手相を観られるらしいと聞いて、友人たちと廊下で観てもらった。私に向かって教師は一言「あー、これは将来、三角関係で苦労するね」と言った。その時の衝撃が忘れられない。

 将来は大好きな人と結婚すると信じて疑わなかった。明るいはずの未来に、いきなり薄暗いものが紛れ込んできたように感じた。当たらなくても誰も文句を言わないのに、なぜあの時、見えたままを私に伝えたのだろう。大人になった今、教師にもう一度会って話したいと無性に思う。

『暗室』の主人公である「私」(中田修一という作家)は44歳。右目の下に泣きぼくろがある。彼は、これがあまり縁起の良くないほくろなのかどうか、具体的なことを知りたいと長年思っていた。ある時、人相の研究をしているという知人に尋ねると「娘で苦労する相だ」と言われる。

 しかし、彼には娘どころか子供がいない。

 10年前に妻を亡くして以来、独り身を通している中田。何人かの女性たちと肉体関係を持ちながら、誰一人とも深い関係にならず、結婚も、子供をつくることも避けている。「おれは自由だ」と部屋で一人呟く彼だが、実は過去のトラウマがあり、性と生の問題を曖昧にしたまま「ついでに生きている」ような状態だ。

 彼は「男のは性器であるが、女のそれは生殖器」と考え、性行為による女の快楽の「行き着く先は受胎」だと信じている。だから、子供を欲しがりもせず結婚も求めない“安全な”女性ばかりを選んでいた。私は最初、生殖を恐れ、官能だけを欲する中田に「ああ、こんな男性いるなあ」と嫌悪感を抱いた。でも次第に、彼のそばから一人、また一人と女性たちが去っていくに従って、幸福を選ぶことができない彼の、行く末の孤独を思った。そんな中で一人残った女性、夏枝が暮らす、薄暗い部屋の前に中田が立つところで物語は終わる。その部屋に果たして夏枝はいるのだろうか。

 私の脳裏に、泣きぼくろのある中田の顔が浮かんだ。

 苦労すると彼が言われた「娘」とは、女性たちのことだったのかもしれない。

 私にも、薄い泣きぼくろがある。そして中田と同じ44歳。色々引っ張られないように願って、本を閉じた。

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