<書評>『自由の丘に、小屋をつくる』川内有緒 著

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自由の丘に、小屋をつくる

『自由の丘に、小屋をつくる』

著者
川内 有緒 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103552512
発売日
2023/10/18
価格
2,420円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『自由の丘に、小屋をつくる』川内有緒 著

[レビュアー] 辻山良雄(「Title」店主)

◆DIYで育む 生き抜く力

 本書は「自分でも信じられないくらい手先が不器用で、洗濯物を畳むことすら苦手だった」川内さんが、縁あって見つかった丘の上に、仲間たちの手も借り、小屋を作った記録である。そこで語られるのは「生きる力」の回復だ。

 実際、自分にはできないと思い込んでいることが、わたしたちには多いのではないか。衣食住の<住>はその最たるもので、セルフビルドにあこがれてはいても、堅牢(けんろう)な家や壁を前にすると、自らの無力さを感じて尻込みする。そして少しくらい自分の好みでなくても、少々値段が高いと思っても、お金で解決する方を選んでしまうのだ。

 でも川内さんは諦めない。持ち前のDIY精神(ここでのDIYとは「どうなっても<D>いいから<I>やろう<Y>」)を発揮し、一から小屋を作る。まずは小さな机を作り、実家のリノベーションで経験を積んだあと、土地を探す。土地が見つかればそこを整地し基礎を打ち、壁を立ち上げ、屋根をかけていった…。その過程を読んでいると、なるほど、人が住む空間とはこうしてできるのかと勉強になるし、自分でも何か作ってみたくなるだろう。

 そして本書は、小屋作りの間、川内さんに起こった人生の記録でもある。そもそも小屋を作ることに思い至ったのも彼女に娘が生まれたから。自分たちの力で小屋を作ることができれば、それがこの先生きる力となり、娘に寄り添ってくれるかもしれないと願ったのだ。小屋は何年もの時間を経て建てられたが、その間娘は大きくなり、少しずつこの世界の手触りを覚えていった。小屋に関わる仲間も増えたが、彼らは楽しそうだから集まるのであって、それは損得のつながりとは別のものだ。いわば自然発生的なコミュニティ。だから気持ちがよくて、どこかあかるい。

 川内さんは書く。「我々はとても不確実な時代を生きている」。その通り。そしてそのような難しい時代だからこそ、その人を裏切ることのない、世界を生き抜く力(それは人を自由にする)が必要なのだ。ボン・ボヤージュ!

(新潮社・2420円)

1972年生まれ。ノンフィクション作家。著書『空をゆく巨人』など。

◆もう1冊

『ニワトリと卵と、息子の思春期』繁延あづさ著(婦人之友社)

中日新聞 東京新聞
2023年12月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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