『自由の丘に、小屋をつくる』
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己の力で何かを変える〈自由〉不器用な作家のDIY奮闘記
[レビュアー] 篠原知存(ライター)
『空をゆく巨人』『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』などの好著で知られるノンフィクション作家が、山梨県に借りた土地で小屋づくりに取り組むセルフ・ドキュメンタリー。読むまでは農小屋や漁具小屋みたいなものを想像していたけれど、ツーバイフォー工法による建築はかなり本格的だ。
DIYが好きだとか得意だから始めたわけではなく、むしろ不器用なので避けてきた。中学校で家庭科の成績は「一」だったそうだ。にもかかわらず取り組んだ理由のひとつをこう記している。〈わたしは何も生み出すことができず、消費者としての生き方しかしらない〉〈いま望むのは、「ものを買う」以外の選択肢を持つことだ〉。
たいていのものは買った方が効率的だしコスパもいい。でも著者は暮らしの基盤を手作りしたい、という衝動に従うことにした。といっても工具の使い方すら知らないので、まずはDIY工房に通いはじめる。最初に手作りしたのは小さな娘のミニサイズの机。続いてロッカーやベンチなども作り、練習を兼ねて実家のリノベーションにも取り組む。
〈ひとつ何かが作れるようになるたびに、自由になるように感じた。己の力で何かを変えることができる。その実感の先に広がるのは、新しい風景だった〉。いやぁ、いい言葉。
床を張り、壁を立て、屋根をかけて……素人にとっては建築工事の一つ一つが小さな冒険に等しい。でも体当たりで取り組むうちに、新たな知恵や技能が得られて、手足も動くようになり、作業に喜びを感じられるようになる。なにより、家族や手伝ってくれる仲間と過ごす時間が、本当に楽しそう。
ものやサービスにお金を使うかわりに、自分の手や身体を動かす。小屋までは無理としても、日々の暮らしの中でできることはありそう。かなりすり減ってきた自転車のタイヤ、自分で交換してみようかな。