思いやりと心配りが鍵。人間関係をスムーズにするヒントを「茶道」から学ぶ

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思いやりと心配りが鍵。人間関係をスムーズにするヒントを「茶道」から学ぶ

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

たとえば「日本人として、和の教養や作法を知っておきたい」と考えているとか、あるいは「日本の伝統文化を知ってビジネスに活かしたい」「日々の生活を充実させたい」という思いを抱いているとかーー。

「お茶」を学ぶ人だけが知っている「凛とした人」になる和の教養手帖』(竹田理絵 著、実務教育出版)の著者は本書を、そういったさまざまな方に読んでほしいと思っているのだそうです。

とはいえ茶道には難しそうなイメージがありますし、そもそもお茶を飲む習慣がない方もいらっしゃるかもしれません。

茶道をしている者としてはちょっぴり寂しくなりますが、茶道も、皆さんが「日常的にお茶を飲む」事と同じです。

その一椀を美味しく召し上がって頂くために、お部屋やお道具を整えたり、作法があったりするのです。そして、その茶道の中には、日本の伝統文化の全てが凝縮されているのです。(「はじめに」より)

茶道の世界でもっとも有名な人物として知られる千利休は、茶道とはなにかと聞かれた際、「渇きを医するに止まる」と答えているのだそう。つまり、「茶道は単に喉の渇きを癒すだけでなく、心の渇きも癒す」と答えたわけです。

茶道家である著者もまた、「茶道はお茶室の中だけでなく、日常生活でこそ活かしてください」と話しているのだとか。茶道にまつわる広範な話題を網羅した本書の根底にもまた、そうした思いがあるということです。

茶道というと、作法や道具ばかりに目が行きがちですが、一番大切なのは精神的な人への思いやりや心配りです。(「はじめに」より)

こうした考え方に基づく本書のなかから、きょうは「茶道から学ぶ人間関係」について触れた「『人』の章」に焦点を当ててみたいと思います。

茶道を日常に活かす

茶室のなかでお茶を点てたり飲んだりする茶道は、茶室内で完結するものだと思われがち。しかし著者は、茶道で学んださまざまなことをぜひ、日常生活で生かしてほしいと思っているのだそうです。

先人からの五百年の知恵は、現代の私たちの生活を豊かにしてくれる要素であふれています。

お茶室の中は、とても質素です。豪華な調度品があるわけではありませんが、清潔にされた茶室の中の床の間には、ありがたい禅語の掛け軸と共に、一輪の季節の花が飾られています。季節感を楽しむことも、茶道の醍醐味の一つ。物の贅沢ではなく、心の贅沢を味わうのです。

基本の型が決まっているお点前では、集中して自分と向き合います。お道具の扱い方も「残心」といって一つ一つの動作に心を残し、丁寧に扱います。そして、亭主もお客様もお互いを思い合い、和やかに過ごすのです。(18〜19ページより)

そんな茶道の精神を、日常生活でも活かしてみてはどうかと著者は提案しています。たとえば、部屋のなかを片づけ、自分にとって本当に大切なものだけを見極めてシンプルな生活をするとか。あるいは日本の四季を楽しみ、行事を大切にして、ゆっくりと過ごしてみるなど。

茶道の型は何度も繰り返すことによって自分のものとなり、心からのおもてなしのお点前ができるようになるもの。同じように日常でも、形だけの挨拶ではなく、心を込めてていねいな挨拶を心がけようという考え方。そうすれば自分も周囲も心が温かくなり、笑顔も増えるというわけです。(18ページより)

茶道から学ぶ人間関係の極意

茶道というと、作法やお茶の飲み方に目が行きがちかもしれません。

しかしもっとも大切なのは、お茶を点ててもてなす亭主とお客様とのコミュニケーション。それは茶道から生まれた「一期一会」、すなわち「どのお茶会も生涯に一度しかない出会いであると心得、主客ともに誠意を尽くすべきである」ということばからも察することができるのではないでしょうか?

また、このことに関連し、著者は「自分をさらに高める教養」を紹介しています。

「一座建立(いちざこんりゅう)」とは「亭主がもてなすだけではなく、お客様もこれに応えて、主客一体となって場を創り上げるものである」という茶道の真髄を表した言葉です。(22〜23ページより)

茶道の根底にはこうした心構えや考えがあり、その思いを表現するために作法があるということ。

だとすれば、お茶の世界ではどのようにして良好な関係をつくり、保っているのかを知りたいところですが、それは日常生活にも応用できるようです。

まずお茶会を開く際、亭主は何日も前からお客様のことを想い、趣向を考え、丁寧に茶室周辺を掃除して、心地よい「場」を作ります。

お客側も、亭主や一緒に過ごす他のお客のことを考え、相応しい服装などで、周りを気遣います。

「茶道は礼に始まり、礼に終わる」と言われるように、亭主とお客同士がお互いを思いやり、気遣うことで礼儀作法を大切にしています。(23ページより)

根底にあるのは、礼儀というものが人間関係をスムーズにするために欠かせない作法のひとつだという想い。

たとえばお茶会では茶席に入る前、お菓子やお抹茶をお出しするときなど、お互いにお辞儀をする場面が多くあるといいます。それは、お辞儀によって相手を敬う気持ちや感謝の心を伝えているから。お客様同士も、先にお菓子やお茶をいただく人があとの人に「お先に」と心遣いの挨拶をするのだそうです。

お茶碗を出す際、いちばんきれいな絵柄がお客様の正面に向くようにお出しするというのは基本的な作法。また、お客様はお茶をいただくときにお茶碗を回し、きれいな絵柄に口をつけないようにするもの。つまり、お互いを思いやる心を作法で表現しているのです。

なお、ここで著者は「海外の方に喜ばれる教養」をピックアップしています。

茶室の入口であるにじり口をくぐると、国籍、年齢、性別、地位など関係なく、誰もが平等になります。(25ページより)

先ごろ著者のもとへ茶道体験に訪れたお客様は、アメリカ、オーストラリア、ドイツ、日本と国も性別も年齢も異なる方々だったものの、各人が和やかに思いやり、笑顔で茶をいただく姿は平和そのものだったそうです。(22ページより)

興味を持った箇所から読めるような構成になっているのは、「茶道や和文化に純粋な興味を持った方が無理なく楽しめるように」という思いがあるから。ここを出発点として活用すれば、日々の暮らしがより豊かなものになるかもしれません。

Source: 実務教育出版

メディアジーン lifehacker
2023年12月6日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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