ChatGPTなど対話型AIの必須スキル「プロンプトエンジニアリング」で陥りがちな罠

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AIと共に働く - ChatGPT、生成AIは私たちの仕事をどう変えるか -

『AIと共に働く - ChatGPT、生成AIは私たちの仕事をどう変えるか -』

著者
小林雅一 [著]
出版社
ワニブックス
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784847066979
発売日
2023/09/19
価格
990円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ChatGPTなど対話型AIの必須スキル「プロンプトエンジニアリング」で陥りがちな罠

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

ChatGPTを筆頭とするAIが大きな話題を呼んでいますが、実際のところそれらが浸透することによって、私たちの仕事はどのように変わっていくのでしょうか? このことについて『AIと共に働く – ChatGPT、生成AIは私たちの仕事をどう変えるか』(小林雅一 著、ワニブックスPLUS新書)の著者は次のように述べています。

「言葉で操作できる高度なAI」、つまり人間の言うことを聞く「有能なアシスタント(としての人工知能)」を使いこなせば、日頃の定型業務を中心に仕事の効率性が飛躍的に高まると期待されています。

他方で、これら新顔のAIアシスタントは(あくまで比喩的な表現ですが)「性格上の問題」も抱えています。それは自分の実力ではできないこと、あるいは答えられないことを正直に「できません」「わかりません」と認めないことです。(「はじめに」より)

つまりは自分の限界を受け入れることなく、“口から出まかせの嘘(捏造情報)”や誤った情報を回答してその場をしのごうとする傾向があるということ。しかも、そういった誤情報があたかも真実であるかのように語られるため、ユーザーがうっかり騙されてしまうことも珍しくないわけです。

だからこそ、このツールのことを盲信するのではなく、意識的に活用する必要が私たちにはあるということ。著者も本書において、その点を強調しているのです。

これらプラスとマイナスの可能性を併せ持つ強力なAIに、私達は今後どう向き合い、どのように仕事に活用していけばいいのでしょうか。本書では具体的な事例なども随所に交えて、貴方と一緒に考えていきたいと思います。(「はじめに」より)

でも実際のところ、これからの未来にはなにがどのように変わっていくのでしょうか? 第4章「未来予測――私たちの生きる世界は今どこに向かっているのか」のなかから、ヒントを見つけ出してみたいと思います。

人とパソコンが対話しながら仕事をする

オフィスワーカーにとってもっとも身近なツールであるパソコンが、人間のいうとおりに働くロボットのようになるかもしれないーー。

著者によると、米マイクロソフトが2023年6月にプレビュー(テスト公開)を開始した「ウィンドウズ・コパイロット」は、そんな時代の到来を予感させる対話型AIなのだそう。

「コパイロット(Copilot)」は副操縦士を意味し、人間が言葉で指示をすることでパソコンを操作できるようにする仕組みです。普段はウィンドウズのデスクトップ画面の最下部にあるタスクバーにアイコンとして常駐しています。

必要に応じて、このアイコンをクリックするとデスクトップ画面の右側に縦長のサイドバーが表示されます。これが私達ユーザーとコパイロット(AI)が対話するためのチャット画面になります。(152ページより)

このチャット画面を通し、ChatGPTのようにAIにさまざまな質問をすることができるということ。それらにAIが答えることにより、ユーザーが満足する答えを得るまでチャットが続いていくわけです。

それに加え、各種アプリの起動や操作、パソコンの設定変更、文書ファイルの処理といった作業も「対話形式(ことばによる命令)でAIに指示することができるといいます。

たとえば、「ちょっと目が疲れたので、パソコンの操作環境を改善したいんだけど」とリクエストすると、AIが目に優しい画面設定を提案して自動的に変更します。

あるいは会議の議事録などの資料をPDFファイルにしてチャット画面にドラッグ・アンド・ドロップし、その資料の要約を指示することもできます。(153ページより)

これはほんの一例ですが、さまざまな側面からビジネスパーソンをサポートしてくれるわけです。現時点ではあくまでサイドバーを利用したチャット(テキスト形式の会話機能)に限定されているものの、いずれは音声認識機能と連携することも予想できそう。

つまりは私たちが発することばによってパソコンに指示を出し、パソコン側も合成音声によることばで返事をするようになることも考えられるということ。したがって近い将来に私たちは、パソコンというAIロボットと音声で会話しながら仕事をするようになる可能性が高いわけです。(152ページより)

スキルがいらなくなる時代は人間にとって幸せなのか?

機械が人に合わせてくれる時代は、人間が苦労せずになんでもできるようになる“いい時代”であるかのようにも思えます。なにしろ、これまでは機械を使うために必要とされたスキル(技能)も無用になるのですから。

しかし、はたしてそれは本当に幸せなことなのでしょうか? この点に関連し、著者はIT系の雑誌やウェブメディアでよく見る、「あなたの欲しい回答を引き出すベスト・プロンプトを大公開」といった見出しを引き合いに出しています。少し長くなりますが引用しましょう。

具体的にはChatGPTに業務レポートを書かせたり、新製品のアイディアを提案させたり、表計算ソフトのデータ処理を自動化させたり、あるいは取引先へのお礼のメールを書かせたり、会議の録音データを文字起こしさせたり、その議事録を作らせたりと多岐にわたります。

これら様々な作業において「良いプロンプト」と「悪いプロンプト」の両方を紹介し、それによるChatGPTの出力結果を比較したうえで、「良いプロンプトにすると、こんなに良い結果が得られます」と謳っています。

しかしChatGPTにメールや業務報告書などを書かせる場合には、「返信先の相手に伝えたいこと」や「実際にはその仕事で何をやったか」等を箇条書きで入力しなければなりません。その際、入力する情報が詳細であればあるほど、ChatGPTから出力されるメールや報告書もベターになるとされます。(160〜161ページより)

これが「プロンプト・エンジニアリング」と呼ばれるものですが、問題はかなりの量の情報をChatGPTに入力しなければならないこと。また、その結果として出力されたメールやレポートよりも、感情が気で入力した情報やさまざまな指定条件などを含むプロンプトのほうが長くなってしまうこともあるでしょう。

だとすれば、そんな面倒なことをするよりも最初から自力でメールやレポートを書いたほうが早いかもしれません。しかも、ChatGPTへの入力に時間をかけたからといって優れた内容のメールやレポートが作成されるとは限りません。

別な表現を用いるなら、ChatGPTなどの生成AIの登場によって、パソコンなど機械を操作するための特殊技能は不要になりつつあるのに、人はとかく(あまり必要とは思えない)プロンプト・エンジニアリングのような新しい技能を開拓し、それを磨きたいという欲求にかられてしまうということ。

これは、今後AIと共存していくうえで忘れるべきではないポイントといえるのではないでしょうか?(160ページより)

AIとの共存が現実的なものになりつつある状況下で必要なのは、このツールを今後の社会にどう活用していくべきかを慎重に検討しておくことであるはず。そのためのガイドラインとして、本書を参考にしてみてはいかがでしょうか?

Source: ワニブックスPLUS新書

メディアジーン lifehacker
2023年12月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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