『自分を否定しない習慣』
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その苦しみは「解決できるものか、解決できないものか?」まず考えると悩まない
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
私は大学院を卒業した後、救命救急センターや農村医療に従事し、1994年から、全国に10か所程度しかなかったホスピス病棟の一つである、横浜甦生(かいせい)病院のホスピス病棟で働き始めました。
これが、ホスピス医としての人生のスタートであり、2006年には神奈川県横浜市瀬谷にめぐみ在宅クリニックを開院。
30年近くの間に、4000人以上の患者さんを看取ってきました。(「はじめに」より)
『自分を否定しない習慣』(小澤竹俊 著、アスコム)の著者は本書の冒頭で、自身のキャリアについてこう説明しています。
看取りの現場で感じるのは、自分自身や自分の人生を否定する患者さんの多さだそう。そして、そんななかでよく耳にするのは、「迷惑をかけたくない」ということばなのだとか。
長く会社や社会、家族のために必死で働いてきた人も、年齢や病気などのせいで「できないこと」が増えると、社会の役に立たなくなってしまったことに絶望するわけです。
ただし、そうやって自分を否定してしまうのは人生最後のときを間近に控えた患者さんだけではないはず。若い人や健康な人のなかにも、他人に迷惑をかけてしまっている自分を肯定できずにいたり、「自分なんていないほうがいい」と思ってしまっている人が少なくないということです。
「他人に迷惑をかけたくない、嫌われたくない」と思っている人。
自分のせいではないこと、自分の行動とは関係のない出来事にまで責任を感じ、自分のせいにしている人。
年齢を重ねたり、何らかの病を得たりして、思うように動けなくなった自分を恥じている人。
「自分は何のために生きているのだろうか」「自分は存在していていいのだろうか」といった、漠然とした不安を抱えている人。(「はじめに」より)
つまりホスピス医としての経験を軸とした本書は、そうした方のために書かれているわけです。きょうはそのなかから、content3「迷ったら『心が穏やか』でいられるほうを選ぶ」に焦点を当ててみましょう。
「どうしても変えられないもの」は静かに受け入れよう
生きている限り、人は苦しみと無縁ではいられません。
そして多くの苦しみは、「こうありたい」「こうしたい」という希望と、それが叶わない現実との開きから生まれるもの。双方の開きが大きければ大きいほど、苦しみや自己否定感が強くなるわけです。
では、悩みや苦しみを抱えてしまったとき、私たちはどうすればいいのでしょうか?
その問いに対する答えは、ニーバーの祈りの中にあると、私は思います。
ニーバーの祈りは、アメリカの神学者、ラインホルド・ニーバー(1892〜1971年)が考えたものだといわれており、
「神よ、変えることのできないものを静穏に受け入れる力を与えてください。
変えるべきものを変える勇気を、
そして、変えられないものと変えるべきものを区別する賢さを与えてください」
というものです。(131ページより)
まず重要なのは、苦しみをもたらす希望と現実との開きには、埋められる(変えられる)ものと埋められない(変えられない)ものがあると認識すること。
たとえば仕事でいえば、あきらめず努力すれば、いつかはいい結果を出せるものがあるはず。それなどはまさに、変えられる可能性のある現実、埋められる可能性のある開き、解決できる可能性のある苦しみだといえるわけです。
しかしその一方に、どうしても解決できない苦しみがあるのも事実。だからこそ著者は、ニーバーの祈りを「人生における選択の大切さ」を訴えているものと捉え、次のように解釈すべきだと考えているのだといいます。
「解決できる苦しみと解決できない苦しみを見分ける賢い目を持ちましょう。
そして、解決できない苦しみにいたずらに悩むのをやめ、勇気を持って、解決できる苦しみに力を注ぎましょう」(134ページより)
大切なのは、いま抱えている悩みや苦しみをしっかり見つめ、そのなかから「解決できるもの」を選択し、ときには勇気を持って解決に取り組み、解決できないものは静かに受け入れること。
それができたとき、人は自分自身を肯定し、心の平穏を手に入れ、幸せを感じられるようになるわけです。(128ページより)
解決できない問題があっても、自分を責めなくていい
気がかりやイライラなどネガティブな感情の多くは、希望と現実との開きによる苦しみから生まれているもの。
ところが多くの人は、自分が苦しんでいることに気づいていないのだそうです。しかし、自分が抱えている苦しみに気づくことができれば、少しずつ「やるべきこと」が見えてくるはず。
そこで著者はニーバーの祈りの祈りに従い、気がかりやイライラの原因となっている苦しみを、「変えられるもの(解決できる苦しみ)」「変えられないもの(解決できない苦しみ)」の2つに分けることを提案しています。
その苦しみは、自分自身の努力や他者からの助けによって解決できるものでしょうか?
それとも、誰にも解決できないものでしょうか?(139ページより)
解決できるものなら、そこに力を注ぐべき。逆に自分の手に負えないようなことであれば、まわりの人や医療機関、公共サービスなど“ほかの人の力”を借りればいいのです。
もちろん苦しみのなかには、自分の努力次第だとはいえ、解決することが非常に困難なものもあるでしょう。また、「強い自分でありたい」という人には、なにもできない自分を認められず、他者に任せたり委ねたりできない傾向があったりもします。
しかしそれでも、たとえ弱くても、なにもできなくても、自分を責めないでほしいと著者は強調しています。それよりも、「いま、自分ひとりでその苦しみを解決することは難しい」という事実を受け入れ、ほかの人を頼ってみるべきだと。
つまり大切なのは、そうした考えのもと、勇気をもって変えられるものを変え、苦しみの解決に取り組むこと。なぜならそれが、気がかりやイライラを和らげることにつながるからです。(136ページより)
いまの自分自身を受け入れ、「自分は生きていていい」と思えるようになるために大切なのは、この世を去る瞬間まで、穏やかで幸せな人生を送ること。
そして「自分を否定する気持ち」を手放すことは、その第一歩なのだと著者はいいます。こうした考え方に基づく本書は、自分を否定しがちな方にとって大きな助けになってくれることでしょう。
Source: アスコム