「感情移入して涙がボロボロ出た」 婚活1000本ノック主演の3時のヒロイン福田麻貴が紹介する文庫3冊

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  • ゴールデンスランバー
  • レ・ミゼラブル 1
  • 婚活1000本ノック

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人生で一冊目

[レビュアー] 福田麻貴(芸人/俳優)


3時のヒロイン・福田麻貴さん

「女芸人No.1決定戦 THE W」で優勝後、多方面からオファーされるお笑いユニット「3時のヒロイン」でツッコミを担当する福田麻貴さんがおすすめの3冊を紹介する。

福田麻貴・評「人生で一冊目」

 子どもの頃から、知りたいことや悩みが出来ると駆け込み寺のように本屋に赴き、本の中でいつも解決してきました。学校の図書室では伝記や児童向け文学もよく読みました。

 しかしあえて人生一冊目を挙げるなら、大学時代に友達に薦められた『ゴールデンスランバー』は、初めて頭を打たれた小説です。文字を追うだけで逃走劇の臨場感が映像を見ているかのように感じられたり、感情移入して涙がボロボロ出たりする読書体験は初めてで、ここから小説の魅力にどっぷりハマることになります。

 暗殺犯の濡れ衣を着せられて追われる主人公の青柳、彼を匿い、助けてくれる人々。逃走劇のスリルの先にある人間の温かみや信用の大切さが身に染みます。

 印象に残っている登場人物は連続通り魔のキルオ。謎めいていてユーモラスなキャラクターと、不思議な存在感。主人公を手助けするキャラクター全員が魅力的な人物像で愛着を覚えるので、読後はしばらく余韻に浸りました。

『レ・ミゼラブル』も心に残っています。これは私の人生で一冊目の翻訳小説でした。有名ミュージカルの原作でもあるのでストーリーは言わずもがなですが、言語化の幅広さや的確さ、描写の掘り下げの深さに驚きました。表現の仕方が非常に新鮮で、思わず蛍光ペンを引いてしまったページもあります。

 善と悪について向き合い続けるジャン・ヴァルジャンの葛藤と逃走劇、革命の激しさ、それぞれの人物の悲劇が繊細に丁寧に綴られていました。

 印象に残っているのはファンチーヌとエポニーヌのそれぞれの最期です。救いようのない痛々しい最期がこうも生々しく描写されるか、と苦しくなります。その描写は私の脳に、文章としてでなく映像として、トラウマのように残っています。

 最後の「人生で一冊目」が『婚活1000本ノック』です。

 というのは、この作品を原作とした同名のドラマで、人生初のヒロインを務めさせていただくことになりました。

 私が演じるのは、三十三歳の売れない小説家・南綾子。この本は、作家・南綾子さんが「この物語の主人公はわたしである」という書き出しから綴る小説です。かつて自分を捨てた男・山田が幽霊になって現れ、婚活を綾子に命じます。「彼氏と温泉に行きたい」という綾子の願いが叶えば、自分は成仏できるはずだから、と。

 婚活中の妙にリアリティーのあるストーリーに奇想天外な「幽霊」が登場することによって、どこからどこまでが実話なの!?と楽しく想像してしまいます。

 次に自分のことを好きになってくれた人と付き合おう!と決意するものの、いざ現れると好きになることが難しかったり、頭で判断するなら誠実で真面目な人がいいのに、結局真面目な人といてもつまらなくて、不真面目でも面白い人といたいと思ってしまうところなどは「あるある!」と頷いてしまいました。全女性が共感できるのではないでしょうか。

 他にも綾子と私が似ているところは多々ありました。例えば、見た目には自信がないのに、トークや居心地の良さで一見釣り合わないような相手が近寄ってくるが、結局誰も本気では言い寄ってこないところ、など……(笑)。

 ドラマのオファーをいただいたときは、絶対に私がヒロインのはずがないと思ったのですが、綾子のパーソナリティーを知るにつれ、実在する南綾子さんには失礼ですが、「ちょうど私だ」と思うようになりました(笑)。

 そして何と言ってもこの本を語るにおいて文章の面白さは外せないです。どんなに悲惨な思いをするシーンでも常に自分自身を俯瞰で見ていて、たとえや自虐を駆使して面白く笑いに昇華するところは、芸人である自分とも通ずる部分です。

 ドラマの中でもモノローグとして綾子の心の声が常に聞こえており、原作を読んでいるときと同じような面白さが味わえるかと思います。

 誰もが憧れるヒロインではなく等身大のリアルな女性の綾子には、多くの女性から共感してもらえると思います。逆に男性から見ると、女性はこんなふうに思っているの!?と驚いたり、新鮮に感じることも多いかもしれません。

 山田役の八木勇征さんとのコンビネーションにもご期待ください。

 婚活のリアルとコメディとしての面白さが両立している本作、ぜひ原作でもドラマでもお楽しみください!

※[私の好きな新潮文庫]人生で一冊目――福田麻貴 「波」2024年1月号より

新潮社 波
2024年1月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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