<書評>『「源氏物語」の時代を生きた女性たち』服藤(ふくとう)早苗 著

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

「源氏物語」の時代を生きた女性たち

『「源氏物語」の時代を生きた女性たち』

著者
服藤 早苗 [著]
出版社
NHK出版
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784140887110
発売日
2023/12/11
価格
1,078円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『「源氏物語」の時代を生きた女性たち』服藤(ふくとう)早苗 著

[レビュアー] 江刺昭子(女性史研究者)

◆男優位社会への逆襲

 紫式部や清少納言など女性の書き手が輩出した平安中期、平安京の貴族層の生活はどうだったのか。一夫多妻妾(たさいしょう)で「女性にとって苦悩の多い社会」だったと、古代女性史が専門の著者は断ずる。

 対等だった男女の性愛が男優位に変化、女に結婚決定権はなく、夫が妻の家に通うか、同居。嫁姑問題はないが、男には複数の妻が許された。男が来なくなれば離婚になるから、子どもを祈願して寺社詣でを繰り返した。上層貴族が女子の誕生を期待したのは、娘を入内(じゅだい)させ天皇の外戚として権勢を手にすることができたからだと、藤原道長の例をあげている。

 働く女や財産相続の実態も詳しいが、身につまされるのは病と老い。「もののけ」に取り憑(つ)かれたり伝染病で苦しむ人々。40歳を過ぎると「老女」で、後ろ盾の父親や夫がいないと生活が不安定になり、死後の葬送もしてもらえない。こんな男優位の家柄主義、身分社会を打ち破りたいと自己主張、社会批判をしたのが女性文学。女たちの逆襲である。大河ドラマ「光る君へ」を見る目が変わる一冊だ。

(NHK出版新書・1078円)

1947年生まれ。埼玉学園大名誉教授・平安時代史、女性史。

◆もう1冊

『藤原彰子(しょうし)』服藤早苗著(吉川弘文館)

中日新聞 東京新聞
2024年1月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク