<書評>『踊る菩薩(ぼさつ) ストリッパー・一条さゆりとその時代』小倉孝保 著

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

踊る菩薩 ストリッパー・一条さゆりとその時代

『踊る菩薩 ストリッパー・一条さゆりとその時代』

著者
小倉 孝保 [著]
出版社
講談社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784065292556
発売日
2022/09/01
価格
2,200円(税込)

書籍情報:openBD

<書評>『踊る菩薩(ぼさつ) ストリッパー・一条さゆりとその時代』小倉孝保 著

[レビュアー] 江刺昭子(女性史研究者)

◆昭和と交差した一代記

 ストリップは昭和の戦後を代表する性風俗。最盛期には全国に約四百館、四千人ものダンサーが働いていたというが、今はほとんど姿を消した。

 最盛期は高度経済成長期と重なり、看板スターの一条さゆりは、陰部を「特出し」して働きバチの男たちを慰めた。本書はその一代記で、一九三七年に埼玉県川口市の鋳物職人の家に生まれた女性が時代とどう交差して生きたかが丁寧に描かれている。

 一条と長嶋茂雄のデビューは、ともに五八年だが、売春防止法施行もこの年である。引退公演中に逮捕され公然わいせつ罪で起訴された七二年には、連合赤軍事件が世間を震撼(しんかん)させ、ウーマンリブが爆発した。

 裁判は最高裁まで争ったが、実刑判決が確定。当時、最高裁に女性判事はゼロ。「一条は終始、男性によって裁かれた。あまりに不公正」と著者は指摘する。では五十年後の今、何かが変わったのか。性風俗業はコロナ給付金で国に差別され、女性の最高裁裁判官は十五人中二人に過(す)ぎない。

 六カ月の刑を終えて出所した一条は、本名の池田和子に戻って「普通の生活」を望んだが、周囲が放っておかなかった。メディアに露出し、居酒屋の経営などで失敗を重ね、男を追い、追われ、酒を飲み、飲まれ、自殺未遂、大やけどの果てに行き着いたのは日雇い労働者の町、釜ケ崎。六十年の生を閉じたのもここだった。

 著者は、生活保護を受けながら解放会館の一室にボロボロの身を横たえている一条に会いにいく。つらいのに彼女はいつも明るい笑顔で迎えてくれた。そこには、反権力の象徴として学生運動家や知識人に過剰な思い入れを託された姿ではなく、人を楽しませるプロに徹した職業人としての誇りがあった。

 関係者への取材を重ねた本格的評伝で、熱くなりすぎず、温かく包み込む筆致で彼女に寄り添う。類書にありがちなアウトローの気取りがない分、すがすがしい読後感がある。一条さん、最後にいい人に巡り合ってよかったですね、と声をかけたくなる。

(講談社・2200円)

1964年生まれ。毎日新聞論説委員。著書『十六歳のモーツァルト』『三重スパイ』など。

◆もう1冊

池川玲子著『ヌードと愛国』(講談社現代新書)

中日新聞 東京新聞
2022年10月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加