『正義はどこへ行くのか 映画・アニメで読み解く「ヒーロー」』
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『正義はどこへ行くのか』河野真太郎著
[レビュアー] 東畑開人(臨床心理士)
正義の時代である。ということはつまり、何が正しいのかが多様になり、それぞれの正義を競い合う時代だ。すると、失業の危機を迎えるのがヒーローたちだ。「正義の味方」をそう簡単に名乗れなくなるからだ。
そんな時代に、それでも「正義の味方はいかに可能か」を考えようとしたのが本書であり、本書が扱う物語たちである。例えば、「マトリックス」や「ダークナイト」「アイアンマン」などのハリウッド映画、「プリキュア」や「仮面ライダー」など日本の番組。著者は現代の正義の味方たちを縦横無尽に読み解く。
見えてくるのは、正義の味方たちが戦っている敵たちが、新自由主義やトランプ現象のような、現代社会において刻々と変化する政治や経済であったことだ。これが抜群に面白い。批評家が物語を読み解くと、空想世界のストーリーが私たちの目の前の現実の話になる。私たち自身がスーパーヒーローみたいに不完全な正義を抱えて苦悩し、葛藤しながら生きているのだ。
正義とは何か、悪とは何か。私たちみんなの問いに、物語が真剣に取り組んでいたことがわかる1冊だ。(集英社新書、1056円)