『正義はどこへ行くのか 映画・アニメで読み解く「ヒーロー」』
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多様性時代の悩めるヒーロー像
[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)
クリストファー・ノーラン監督『ダークナイト』が公開されたのは2008年。
「ヒーローも大変だなあ」と思った。なぜなら、悪を倒しているはずのバットマン自身が、「無法者」と呼ばれてしまうのだ。
ゴッサム・シティでは、「正義の暴力」と「悪の暴力」の境界線が崩れ、バットマンとジョーカーがコインの裏表のような存在となっていた。戦闘シーンの迫力が凄まじい分、一人になったときのバットマンの孤独も深いように見えた。
ヒーロー物語が、なぜこんな風になってしまったのか。河野真太郎『正義はどこへ行くのか 映画・アニメで読み解く「ヒーロー」』がその謎を解明している。
著者によれば、『ダークナイト』は21世紀アメリカの「孤立した正義」を表現する作品だった。そして、「法の外にいるからこそ正義をもたらしうる」伝統的なヒーロー像は、「右と左のポピュリズムの区別がつけがたくなった」トランプ時代に維持不能となる。
さらに著者は、ポストトランプ的な社会状況に応答する作品として『スパイダーマン』の最新シリーズなどを挙げ、「多様性」が一般化した時代における「正義」とヒーローの行方を考察していくのだ。
もちろん、日本のヒーローも登場する。超越的なヒーローが正義をもたらす『ウルトラマン』。より等身大なヒーローである『仮面ライダー』。近年の『シン・ウルトラマン』や『シン・仮面ライダー』が表象するものも興味深い。