「ダークナイト」は孤立した正義、「スパイダーマン」は多様性時代の正義…映画・アニメでヒーロー像を解明

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正義はどこへ行くのか 映画・アニメで読み解く「ヒーロー」

『正義はどこへ行くのか 映画・アニメで読み解く「ヒーロー」』

著者
河野 真太郎 [著]
出版社
集英社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784087212938
発売日
2023/12/15
価格
1,056円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

多様性時代の悩めるヒーロー像

[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)

 クリストファー・ノーラン監督『ダークナイト』が公開されたのは2008年。

「ヒーローも大変だなあ」と思った。なぜなら、悪を倒しているはずのバットマン自身が、「無法者」と呼ばれてしまうのだ。

 ゴッサム・シティでは、「正義の暴力」と「悪の暴力」の境界線が崩れ、バットマンとジョーカーがコインの裏表のような存在となっていた。戦闘シーンの迫力が凄まじい分、一人になったときのバットマンの孤独も深いように見えた。

 ヒーロー物語が、なぜこんな風になってしまったのか。河野真太郎『正義はどこへ行くのか 映画・アニメで読み解く「ヒーロー」』がその謎を解明している。

 著者によれば、『ダークナイト』は21世紀アメリカの「孤立した正義」を表現する作品だった。そして、「法の外にいるからこそ正義をもたらしうる」伝統的なヒーロー像は、「右と左のポピュリズムの区別がつけがたくなった」トランプ時代に維持不能となる。

 さらに著者は、ポストトランプ的な社会状況に応答する作品として『スパイダーマン』の最新シリーズなどを挙げ、「多様性」が一般化した時代における「正義」とヒーローの行方を考察していくのだ。

 もちろん、日本のヒーローも登場する。超越的なヒーローが正義をもたらす『ウルトラマン』。より等身大なヒーローである『仮面ライダー』。近年の『シン・ウルトラマン』や『シン・仮面ライダー』が表象するものも興味深い。

新潮社 週刊新潮
2024年2月22日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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