『オオカミくんには騙されない』からヒントを得た、恋愛リアリティーショー×本格ミステリに込めた著者の思い

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好きです、死んでください

『好きです、死んでください』

著者
中村あき [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575246728
発売日
2023/09/21
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「『オオカミくんには騙されない』からミステリに落とし込むヒントを得た」──恋愛リアリティーショー×本格ミステリ 『好きです、死んでください』中村あきインタビュー

[文] 双葉社

 双葉文庫ルーキー大賞を受賞した気鋭・中村あき氏による最新刊『好きです、死んでください』。無人島を舞台とした恋愛リアリティーショー番組の撮影中に、連続殺人事件が起きるという本格ミステリだ。リアリティーショーという設定を活かした登場人物たちの心理戦、無人島というクローズドサークルで起きる惨劇、そして緻密にはりめぐらされた伏線が一気に回収されるラストの快感など、ミステリ好きにはたまらない1冊となった。中村氏に、執筆の背景を伺った。

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■「恋愛」と「殺人」。相反しながらどこか通底する二つをテーマに描くミステリ。

──『好きです、死んでください』は恋愛リアリティーショーの撮影現場を舞台とした本格ミステリですが、この設定はどのようにして思いつかれましたか?

中村あき(以下=中村):きっかけは、恋愛リアリティーショーの人気シリーズ『オオカミくん(オオカミちゃん)には騙されない』を知ったことです。同種の番組にはない特徴があって、それは恋愛のふりだけして場を引っかき回す「オオカミ」の存在です。出演陣はオオカミに惑わされることなく、誰が本気で自分を好きと言っているかを見極め、かつ自分がオオカミでないと相手に信じてもらわないといけない──要はリアルな恋愛模様に、人狼ゲームのような駆け引きや推理といった見どころがプラスされているのです。これは面白いと思って、すぐに本格ミステリに応用できないかと考えました。

──今作は「恋愛」と「殺人」が2大テーマです。実際に作品の中でかけあわせてみていかがでしたか。

中村:「恋愛」と「殺人」のせめぎ合いというテーマは、恋愛リアリティーショー×本格ミステリの枠組みから必然的に生じたものでした。最初はどう扱ったものかと迷うところもありましたが、編集者に助言をもらいながら、少しずつ掘り下げていきました。相反しながらどこか通底する二つの感情・行為が物語ともミステリの構造とも密接に絡み合い、全編を貫く軸になってくれたかなと思います。

──作中、番組の撮影を行っていた主人公達は、人気女優の松浦花火の死体を密室で発見し、その後も不穏な事件が起きていきます。ミステリの王道ともいえる、孤島での連続殺人を描いてみていかがでしたか。

中村:孤島での連続殺人を描くのは、キャリア2作目の『トリック・トリップ・バケーション』以来、2度目になります。ただ今回はミステリの王道をなぞりながらも、恋愛リアリティーショーという新たな要素がかけ合わさることで、今までにない新鮮なミステリになったと自負しています。見たこともない事件、聞いたこともない推理、予想だにしない真相で読者の皆様をおもてなしすることをお約束いたします。

──リアリティーショーの撮影のため無人島を訪れた出演者とスタッフの9名はみな個性的な面々です。書いていて楽しかったキャラ、また難しかったキャラはいましたか?

中村:にぎやかなキャラたちのかけ合いはどれも書いていて楽しかったです。しいて言えば、グラビアアイドルの恋塚うるるが他の面々より少しだけ前に出たがりだった気がします。対外的なポリシーがはっきりしている子で、そこが気に入っています。

■恋愛リアリティーショー×本格ミステリという着想を得た時に、この舞台設定でしか描けない展開や仕掛けのアイデアが次から次へと湧いてきた

──前作『チェス喫茶フィアンケットの迷局集』は独立した事件を解決していく連作短篇集でした。今作は長編での連続殺人事件ですが、書いていて違いや難しさを感じたことはありましたか?

中村:短編は紙幅がタイトな分、逆に書くべきことが器のサイズに合わせてある程度決まっていきます。一方で長編は自由度が高い分、ストーリーの緩急だったり、どこにどのエピソードを配置するかなど、全体のバランスを見ながらコントロールしなければならないのが難しいと感じます。ただ全編にばらまいた伏線を、満を持して一気に回収する解決シーンは書く側としてもカタルシスがあります。

──探偵役の小口栞と、助手役の渚子はミステリ好き同士で、無人島で起きたこの殺人事件を独自調査しながらさまざまな推論をかわします。中村さんご自身が影響を受けたミステリ作家や作品はどのようなものがありますか?

中村:いわゆる新本格ミステリが心の故郷です。影響を受けた作家さんは数えきれませんが、特別な位置にいらっしゃるのが法月綸太郎先生。今も『密閉教室』が胸の深いところに突き刺さったまま抜けません。そこから古典にさかのぼり、私は無事エラリー・クイーン・スクールの徒となりました。この世で最高のミステリは何かと問われれば、私は『ギリシア棺の謎』と答えます。

──ミステリ作品を書く上で、中村さんが意識していることや、気を付けている点があればお教え下さい。

中村:デビューしてしばらくは、とにかく自分の読みたいものをまっすぐ追求して、何より本格ミステリが好きな方々に届けたいと思って書いていました。ただ最近は少し変わってきていて、本格ファンに楽しんでもらえる作品を目指すのはもちろんですが、そもそもミステリにあまりなじみのない読者にも「ミステリって面白い!」と思ってもらえるような作品作りを意識しています。

──今作を経て、次はどんなミステリを書いてみたいと思われますか?

中村:まだ舞台にしたことのない場所を書いてみたい気持ちがあります。場所というのは、プレイスという意味でもそうですが、時代だったり、あるいは特殊な設定やルールのある世界だったり……漠然とですがそんなことを考えています。そしてやはりどんな舞台で何を書くにしても、折り目正しい本格の論法に則ることにはこだわっていきたいです。

──これから作品を読む読者へ、読みどころや楽しんでほしいところなどがあれば、ぜひメッセージをお願いします。

中村:恋愛リアリティーショー×本格ミステリという着想を得た時に、この舞台設定でしか描けない展開や仕掛けのアイデアが次から次へと湧いてきたことを覚えています。『好きです、死んでください』には、それらをできる限りめいっぱい詰め込みました。また、今回扱ったテーマに関して個人的に抱いている問題意識があったのですが、これについてもミステリという手法を用いて本作に落とし込めた手応えがあります。「恋愛」と「殺人」が絡み合う孤島へ、ぜひ老若男女問わず多くの方に足を踏み入れていただきたいです。そして物語と謎解きを楽しむ中で、あらすじや帯に書かれている〈真犯人〉とは一体誰なのか、を一緒に考えていただけたらうれしいです。

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中村あき(なかむら・あき)プロフィール
1990年生まれ。2013年『ロジック・ロック・フェスティバル~Logic Lock Festival~探偵殺しのパラドックス』で第8回星海社FICTIONS新人賞を受賞し、デビュー。『チェス喫茶フィアンケットの迷局集』で第3回双葉文庫ルーキー大賞を受賞。

COLORFUL
2023年10月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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