賞金10億円で殺人できますか? イヤミスの新旗手による、バカンスから一転、無人島バトルロワイヤル

レビュー

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無人島ロワイヤル

『無人島ロワイヤル』

著者
秋吉理香子 [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575246834
発売日
2023/10/18
価格
1,815円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

無人島に3つ持っていくとしたら、なにを持っていく? 他愛ない会話から実現した楽園行が地獄のバトルロワイヤルに! 限られたアイテムを駆使して生き残るのは誰か 『無人島ロワイヤル』秋吉理香子

[レビュアー] 佳多山大地(ミステリ評論家)

 あっと驚くどんでん返しとビターな読み心地で、多くの読者の支持を得る秋吉里香子の最新作は、無人島を舞台にしたバトルロワイヤル。

 無人島に3つ持っていくとしたら、なにを持っていく?

 この定番の他愛ない夢を実現させたバーの常連8人が、突如サバイバルバトルに巻き込まれる。普段の顔を知っているからこそ深まる心理戦、無人島というクローズドサークルで露わになる本当の人間性、はたして、限られたアイテムのみを手に生き残るのは誰なのか? 

「小説推理」2023年12月号に掲載された書評家・佳多山大地さんのレビューで『無人島ロワイヤル』の読みどころをご紹介します。

***

■「無人島に3つ持っていくとしたら、なにを持っていく?」──。バーの常連客同士がする他愛ない会話が、本当に命がけのサバイバル・ゲームに発展する!

 無人島に3つ持っていくとしたら、なにを持っていく? 常識的に考えれば、ナイフとテントは必須として……「小説推理」を手に取るくらいのミステリーファンなら、残るひとつは本を一冊チョイスして己(おの)がセンスを見せたくなるもの。うーん、僕だったら、クリスチアナ・ブランドの地中海の島を舞台にした『はなれわざ』かなあ。

 なんてことを気楽に考えられるのも、自分が無人島に行く機会などありはしないという確信から。東京郊外のとある町にある〈バー・アイランド〉にて、初夏の夜に常連客同士がその話題でひとしきり盛り上がったのも、いい時間つぶしで終わるはずだった。が、バーのマスターが「俺、無人島、持ってるよ」とぽつりと漏らしたことから一転、非現実的だった無人島バカンスにみんなで出かけることに。いざ、マスターが相続した名も無き島に、それぞれ三つのアイテムだけ持参し上陸した8人の常連客だったが──このマスター、およそ正気の沙汰ではない“王様の遊び”を企画していた。なんと賞金10億円を懸けた、本物の血が流れるサバイバル・ゲームの開幕を告げるのだ……!

 複数の登場人物が一所に隔離され、何かの目的のために殺し合いをしろと迫られる物語形式を、一般にデス・ゲーム物と呼ぶ。いまや小説にとどまらず、広く創作ジャンルのひとつとして認められる当代デス・ゲーム物の火付け役となったのは、ミステリーファンならご存じ、高見広春の『バトル・ロワイアル』(1999年)である。秋吉理香子の新刊『無人島ロワイヤル』では、本家バトロワと同様、登場人物たちは〈ゲームマスター〉の定めた人数になるまで殺し合うことを求められるのだ。

 無人島に上陸した常連客の中には、頼れる医師がいる。バーのマスターの監視の目をあざむき、8人全員が助かる方策を医師は提案するのだけれど、残念ながら複数の常連客がマスターのお望みどおりの行動に走ってしまう。注目すべきは、それが決してお金目当てではなく、普段は抑えつけていた殺人衝動や、あるいは過度な承認欲求から仲間の命を平気で奪いだすところだ。やはり人間の本性は、極限状況においてこそ真(しん)にあらわになってくる。

 作者の秋吉理香子は、しばしば“イヤミスの新旗手”と称されるが、本書の読後の印象はそれとは逆。とんでもなく悲惨な話なのに、意外にもカラッと明るい、いちおうのハッピーエンド待ちかまえているのですよ。まことユニークでポップなデス・ゲーム小説だ。

小説推理
2023年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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