小川忠 米中が注目するインドネシアの「イスラーム化」

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インドネシア イスラーム大国の変貌

『インドネシア イスラーム大国の変貌』

著者
小川 忠 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784106037924
発売日
2016/09/23
価格
1,404円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

小川忠 米中が注目するインドネシアの「イスラーム化」

[レビュアー] 小川忠

 過激思想に染まった青年たちのテロが続発するなか、欧米世界において反イスラーム感情が拡がりつつあります。イスラームとどう向き合うかが問われる時代に、私は国際交流基金ジャカルタ日本文化センター所長として、本年三月まで四年半インドネシアに駐在し、世界最大のイスラーム人口を抱えるこの国で進行中の巨大な変化を目の当たりにしてきました。

 すなわち、どちらかといえば、従来はさほど戒律にこだわらない「ゆるいイスラーム」として知られてきた国のイスラーム教徒のあいだで宗教意識が鋭敏化する「イスラーム化」現象が大きなうねりをみせており、政治・経済・社会・文化に影響を及ぼしつつあります。

「イスラーム化」のインドネシアに、米国、中国も注目し戦略的な一手を打って来ていることは、両国首脳発言からもうかがい知ることができます。

 二〇一〇年、ジャカルタにやってきた米国オバマ大統領は、経済大国であると同時に世界最大級の民主主義国、多民族国家であるインドネシアの重要性を説きました。独裁制から民主化した経験は東南アジア地域において重要であり、腐敗撲滅や人権擁護に闘うインドネシア市民社会を米国は支援していくとオバマ氏は語りました。

 インドネシアの民主化は、中東世界の民主化を推し進める米国の世界戦略にとって、重要な意味をもつものです。「アラブの春」による民主化が頓挫状態に陥ったことから、米国外交の影響力が低下するなか世界最大のイスラーム国インドネシアの民主化は、米国にとって、イスラームと民主主義の両立の成功事例として注目に値するのです。

 かたや中国の習近平国家主席は二〇一三年、初の東南アジア歴訪の皮切りとしてジャカルタを訪問しました。滞在中、習氏は中国明代の著名な航海家、鄭和の大航海について熱く語りました。

 鄭和。十五世紀、明の最盛期に永楽帝の命により、東南アジア、インド、中近東、アフリカ東岸まで大航海した航海家は、雲南出身のイスラーム教徒だったのです。鄭和が生きた時代は、東南アジアにおいてイスラーム化が進んだ時期であり、そのイスラーム布教において、華人も一定の役割を果たしてきたと語る研究者もいます。

 習氏が鄭和の大航海に言及したのは、インドネシアのイスラームへのメッセージだったのでしょう。習氏はこの発言とあわせて、有力イスラーム指導者を中国に招くことを明言しました。習主席のジャカルタ訪問にあわせてイスラームにアピールする中国の文化外交が展開されたのです。

 さらば日本はどうインドネシアと向きあうのか。日本にとって最も身近なイスラーム大国の変貌、そのプラス・マイナス様々な諸相を、あるがままに理解していただきたい。それが筆者のささやかな願いです。

新潮社 波
2016年10月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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