40代の夫が、末期がんに侵された同い年の妻に寄り添う中編小説。病院を見舞う仕事仲間を通じて知る妻の職業人としての一面、医療者との感覚のずれなどが細かく淡々と描かれる。死への歩みを特別視することなく、死さえも日常に取り込もうとする作品だ。
著者自身も2年前に実父をがんで亡くした。夢に見る回数が減るなど、だんだんと距離が遠のく感覚を創作の源にしたという。劇的な展開がないぶん、覚悟を決めた妻に寄り添う夫のやわらかな愛情が胸を打つ。死後に始まる関係も含め「美しい距離」と名付けられたことに、救いを感じた。(文芸春秋・1350円+税)
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2016年8月7日 掲載
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