ハーバード大学が日本の小説を教材にしている理由 世界レベルのエリートが注目

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 ハーバード大学といえば言わずと知れたアメリカの名門大学で、世界的エリートの登竜門だが、実は日本への関心が深く、東京帝国大学を卒業したロシア人セルゲイ・エリセーエフが1932年に東洋学科の教授に就任して以来、長年にわたって日本研究が続けられている。

 ジブリ作品などに代表されるアニメーションに関心が集まっているだろうことは想像に難くないが、村上春樹さんや東野圭吾さんは言うまでもなく、幅広く現代文学まで読み進める学生が増えているらしい。同大学の関係者を取材して『ハーバードの日本人論』(中公新書ラクレ)を上梓した作家で、コンサルタントでもある佐藤智恵さんはこう書いている。

「ハーバードで有吉佐和子の『恍惚の人』を学んだ学生が医者になり、『平家物語』や『武士道』を読んだ学生が弁護士や経営者になる。この物語を語る力が日本という国の大きな強みになっている」(前掲書)

 作家・乃南アサさんの『凍える牙』も数年にわたって講義で取り上げられている一冊だ。同作品は白バイ隊員から刑事へと転じ、夫に浮気されて離婚しながらも、たくましく事件捜査にあたる女性・貴子の姿を描いたミステリー小説なのだが、同書を講義で取り上げているハーバード大学・アジア・センター長のカレン・ソーンバー教授は前出の『ハーバードの日本人論』でこう証言している。

「この作品を教材にしている理由は2つあります。1つは、毎年、学生から高評価を得ていることと、もう1つは日本の刑事司法制度の課題だけではなく、職場における男女格差の問題も浮き彫りにしていることです。(中略)男性刑事は貴子が女性であるというだけで、偏見の目で見ていて、彼女が重要な事実を見つけても『女が言うことなんて』と聞く耳を持ちません。しかし、貴子はあらゆる偏見や障害を乗り越えて、やるべきこと、やらなくてはいけないことをやり抜いていきます。その姿に女子学生だけではなく、男子学生も共感するのです」

 1996年に直木賞を受賞した同作を、日本人はエンターテイメントとして読んだわけだが、いま話題の#MeToo運動に象徴される、女性の地位向上という社会的なテーマを先取りした「社会派作品」とも読めるわけだ。言われてみれば、前出の『恍惚の人』も、発表当時は「純文学」と銘打って刊行されたが、介護というきわめて社会的かつ現代的なテーマを先取りした社会派小説でもある。このように自国文化の本質を「外からの視点」によって気がつかされることは多い。前出の佐藤さんはこうも書いている。

「現在、日本政府も日本企業も積極的にグローバル化を推進していますが、グローバル化とは決して、カタカナ言葉やローマ字をたくさん使ったり、西洋かぶれになったりすることではありません。(中略)結局のところ、グローバル化の時代に問われるのは、日本や日本人のことをどれだけ深く理解しているかです」

 グローバル時代こそ、自国文化を足元から見直すことが大切なのかもしれない。

Book Bang編集部
2019年6月25日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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