「知らなかった」では済まされない マタハラをしない・させないために知っておくべき新制度

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共働きが当たり前になった現代。産休・育休を経てせっかく保育園が決まっても、復帰後に働き続けられるかどうかは職場の環境にかかっています。では、復帰社員を「受け入れる側」として、どのような点に留意すればよいのでしょうか。制度運用に詳しい特定社会保険労務士の宮武貴美さんが、2022年4月から順次施行が始まった「改正育児・介護休業法」をふまえてポイントを解説します。

※本記事は『新版 総務担当者のための産休・育休の実務がわかる本』(宮武貴美 著)の一部を抜粋・再編集したものです。

■その発言、マタハラです!

厚生労働省(2020年調査)によれば、女性の育児休業取得率は8割を超えたものの、第1子の妊娠で退職する人は少なくありません。出産・育児をする従業員が育休を取り仕事に復帰して働き続けるためには、それぞれの実情を鑑み、適切な支援をしていくことが会社には求められています。

ところが、会社として環境を整えたつもりでも、管理職をはじめ、社内への周知や制度理解が徹底されていないと、思わぬトラブルにつながることがあります。

売上目標を達成するための新規プロジェクトを立ち上げることが決まっていたX社の営業部では、そのプロジェクトメンバーになる予定の山口さんが妊娠。プロジェクトの担当課長は、妊娠の報告をした山口さんに心ないことばを投げかけ、大問題に……。そこで同社の総務部は、支援の方針をあらためて確認しました。


産休・育休制度の運用は「職場の環境整備」がカギ

妊娠を報告した従業員へ適切な対応をするためにも、総務担当者は「労働基準法」「男女雇用機会均等法」「育児・介護休業法」という3つの法令上の母性保護や母性健康管理、育児支援等について、しっかり理解しておくことが大切です。X社の営業部の事例が明日は当社で起こってしまう、ということがないように、制度の内容を順に見ていきましょう。

■労働基準法による母性保護
女性が妊娠し、出産することは心身ともに大きな変化を伴います。また、出産するまでの母体および胎児を含む子どもの保護、出産後の母体の保護が必要になります。そのため、労働基準法では、次表のような母性保護の規定を設けています。


労働基準法による母性保護

◆産前産後休業(産前産後休暇)

労働基準法では、産前休業として出産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間)の女性従業員が請求したとき、および、産後休業として出産後8週間の女性従業員は働かせることができないと規定しています。これらをあわせて「産前産後休業」と呼んでいます。

出産後6週間は必ず休ませなければならない休業ですが、出産後6週間を経過した後は従業員本人が請求し、医師が支障がないと認めた業務に就かせることができます。なお、出産日は産前休業に含まれます。

「出産」とは、妊娠4か月以上の分娩をいい、「生産(しょうさん)」だけでなく、「死産」や「流産」も含まれています。そのため、産前休業に入る前に流産をしてしまったような場合は、その日を除き産前休業はありませんが、産後休業は適用されますので、必ず休ませるようにしましょう。

※申請手続きをした場合は、産前産後休業期間中の収入の補償として受けられる社会保険からの給付や社会保険料の負担免除があります。

◆軽度な業務への転換

妊娠中の従業員が、担当している業務が負担であるため業務の変更を希望(請求)したときには、他の軽易な業務に転換させなければなりません。

この際の具体的な負担となる業務や軽易な業務の範囲は、法令で定められていないため、個別に判断することになります。公務員に適用される、人事院が発行している「育児・介護のための両立支援ハンドブック」には、出張制限や夜勤から昼勤への変更などが示されており、民間企業においても参考になるでしょう。

この「軽易な業務への転換」は、業務を転換することを指すため、労働時間を短縮することなどは含まれません。

◆妊産婦等の危険有害業務の就業制限

労働基準法では、妊娠中の従業員または出産後1年以内の従業員のことを「妊産婦」といい、妊娠、出産、哺育(ほいく)等に有害な業務に就かせてはいけないとしています。

就かせることのできない具体的な業務は、具体的に定められており、女性の妊娠・出産機能に有害な業務については、妊産婦以外の女性従業員についても就業が禁止されています(次表参照)。


労働基準法による母性保護

◆妊産婦に対する変形労働時間制の適用制限

労働基準法で規定する法定労働時間は、原則として1日8時間、1週40時間ですが、労働時間を柔軟に設定できるように、変形労働時間制を導入する会社があります。

変形労働時間制では、例えば、特定の日の労働時間をあらかじめ10時間にする等、平均して法定労働時間を超えない範囲で特定の日や週の所定労働時間を法定労働時間を超えて設定できるため、心身に負荷がかかりやすくなります。

変形労働時間制を採用している会社であっても、妊産婦が請求した場合には、1日および1週間の法定労働時間を超えて労働させることはできません。

◆妊産婦の時間外労働、休日労働、深夜業の制限

労働基準法では法定労働時間が決まっているものの、会社は時間外・休日労働に関する協定(36協定)を締結し届け出る等、適切な手続きを行うことで従業員を、法定労働時間を超えてまたは法定休日に働かせることができます。

ただし、妊産婦が請求した場合には、時間外、法定休日、深夜時間帯(22時~翌5時)に働かせることができません。

◆育児時間

出産後、子どもを母乳で育てる女性は多く、一定の時間ごとに授乳をする時間が必要になります。労働基準法では、満1歳に達しない子どもを育てる女性従業員が請求したときには、1日に2回、各々少なくとも30分の育児時間を与えることを義務づけています。これは授乳を想定したものです。

現在は勤務する会社と子どもを預ける保育所が隣接しているケースは多くなく、子どもが1歳になるまでに育児休業等から復帰しても、この育児時間を子どもに授乳する時間として利用するケースは少ないかと思います。

そのため、労働基準法が想定する育児時間の目的で利用されるケースは少ないかもしれませんが、満1歳に達しない子どもを育てる女性従業員に与えられるものであり、要件に該当したときは利用できます。

なお、取得した時間に対して給与を払う法令上の義務はなく、あらかじめ会社ごとの取扱いを就業規則に記載しておきましょう。

■男女雇用機会均等法による母性健康管理

男女雇用機会均等法では、妊娠中や出産後の女性従業員の健康の確保を図る等の措置の推進が目的の1つとして掲げられています。

そのため、下表のような母性健康管理に関する規定をおいています。なお、これらの他にも、婚姻、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等も規定されています。


男女雇用機会均等法による母性健康管理

◆妊婦健診の受診時間の確保

母子保健法では、妊婦や胎児の健康状態を確認するため、医師や助産師(以下、「医師等」という)による身体測定や血液・血圧・尿等の保健指導または健康診査を行うことを規定しています。

標準的な妊婦健診は、妊娠から出産までに下表のように14回が予定されており、会社には女性従業員が妊婦健診のために必要な時間を確保できるようにする義務があります。医師等が下表と異なる妊婦健診を指示したときには、その指示に従って、必要な時間を確保できるようにする必要があります。


男女雇用機会均等法による母性健康管理

なお、出産後(出産後1年以内)は、妊娠中のような回数は設けられていませんが、医師等の指示に従って必要な時間を確保することが求められます。

この妊婦健診を受診する時間は、女性従業員から請求があったときに与えればよいものであり、休日に受診する従業員や、年次有給休暇を取得して受診する従業員もいます。就業時間中にこの時間を与えるときには、その時間に対する給与を払う義務はありません。あらかじめ会社ごとの給与の取扱いを就業規則等に記載しておきましょう。

◆保健指導・健康診査の指導事項を守るための措置

妊娠中および出産後の女性従業員が妊婦健診を受け、医師等から何らかの指導を受けたときは、その従業員が受けた指導を守ることができるようにするため、会社は下表のような時差通勤や勤務時間の短縮等の必要な措置を講じる必要があります。

この措置を講じることで実際に働かなくなる時間に対する給与を払う義務はありません。あらかじめ会社ごとの給与の取扱いを就業規則等に記載しておきましょう。

これらの措置は女性従業員の申出に基づき医師等の指導事項の内容を確認したうえで講じますが、会社が指導事項の内容を的確に把握するため、「母性健康管理指導事項連絡カード(厚生労働省ホームページよりダウンロード可)」が用意されており、このカードを利用して把握するとよいとされています。


男女雇用機会均等法による母性健康管理

■育児・介護休業法における育児支援

子どもが生まれた後、小学校へ入学するまでは特に子どもに手がかかる時期だと一般的にいわれ、育児・介護休業法では、従業員が申出や請求をしたときに仕事と育児の両立ができるような制度の整備を会社の義務としています。

ここでは、制度の概要をまとめるにとどめますので、実際の制度の運用にかかる取扱いや育児・介護休業規程の整備ポイントについて詳しくお知りになりたい方は、『新版 総務担当者のための産休・育休の実務がわかる本』の逐条解説をあわせてお読みください。


育児・介護休業法における育児支援

◆出生時育児休業(2022年10月1日施行)

男性の育児休業取得を促進するため、2022年10月に出生時育児休業(産後パパ育休)という新たな育児休業制度が始まります。

この休業は、子どもの出生後8週間以内に4週間まで取得することができるものであり、原則、取得の2週間前までの申出により取得ができること(通常の育児休業は1か月前までの申出が必要)や、2回に分割して取得できること、さらには労使協定を締結した場合、会社と従業員が個別合意をし、事前に調整したうえで出生時育児休業の期間中に就業することができるという特徴があります。

◆育児休業

長期的な雇用契約のなかでは様々なライフイベントが起こります。子どもの誕生は、従業員にとって特に大きなものであり、誕生後は生活環境が変わることが一般的です。1歳に満たない子どもを養育する従業員は、子どもを養育するための育児休業が取得できます。

そのほか、両親がともに育児休業を取得する場合、子どもが1歳2か月に達するまでに育児休業を取ることのできる期間が延長されるパパ・ママ育休プラスの制度があります。

◆育児休業の延長

子どもが1歳になると、育児休業は終了し職場復帰をすることになりますが、子どもが1歳になるときに保育所に入所できない等の事情があるときは、子どもが1歳6か月になるまで育児休業を延長することができます。

◆育児休業の再延長

1歳6か月になるまで育児休業を延長した後、子どもが1歳6か月となるときに保育所に入所できない等の事情があるときは、子どもが2歳になるまで、さらに育児休業を延長することができます。

◆子の看護休暇

小学校入学前までの子どもを養育する従業員が、病気やケガをした子どもの看病をしたり、子どもに予防接種や健康診断を受けさせるときに、1年に5日(対象になる子どもが複数いるときは10日)まで子の看護休暇が取得できます。

なお、子の看護休暇は1日単位での取得のほか、時間単位でも取得できることとなっています。

◆所定外労働の制限

働きながら育児の時間が確保できるように、3歳になるまでの子どもを養育する従業員が希望(請求)したときは、会社は、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、所定労働時間を超えて働かせることができません。

この制度は、法定労働時間ではなく、従業員ごとに決まっている所定労働時間を超えて働かせることができない点に留意する必要があります。

◆時間外労働の制限

働きながら育児の時間が確保できるように、小学校入学前の子どもを養育する従業員が希望(請求)したときは、会社は、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、1か月24時間、 1年150時間の制限時間を超えて時間外労働(法定外労働)をさせることができません。先に挙げた「所定外労働の制限」とは異なり、ここでは法定労働時間を基準に判断します。

◆深夜業の制限

深夜に子どもを保育するために、小学校入学前までの子どもを養育する従業員が希望(請求)したときは、会社は、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、22時から翌日5時までの深夜に働かせることができません。

◆所定労働時間の短縮等の措置(育児短時間勤務)

3歳になるまでの子どもを養育する従業員は、会社に申出をすることで、育児の時間が確保できるように 1日の所定労働時間を原則6時間とすることができます。

法令上は、3歳未満の子どもを養育する従業員が対象ですが、共働き世帯の増加や祖父母(従業員の両親)の子育てにかかる支援を受けられない従業員の増加などにより、「小学校入学前まで」等、制度を利用できる期間の延長をする会社もあります。

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育児をする従業員が活躍できるかどうかは、制度の整備のほか、職場からの適切な支援が欠かせません。法改正に対応するのみでなく、産休・育休等の制度が社内でしっかりと理解・運用され、労使双方にとって望ましい結果を生み出すことが、これからの会社の発展につながると感じています。

宮武 貴美(みやたけ たかみ)
社会保険労務士法人 名南経営/特定社会保険労務士/産業カウンセラー
中小企業から東証一部上場企業まで幅広い顧客を担当し、実務に即した人事労務管理の様々なアドバイスを行う。インターネット上の情報サイト「労務ドットコム」の管理者であり、人事労務分野での最新情報の収集・発信は日本屈指のレベル。企業担当者・社労士には多くのファンがいる。また、各地でセミナーの講師も担当。
著書に、『社会保険・給与計算 “困った”に備える見直し・確認の具体例20』『社会保険・給与計算 ミスしたときの対処法と防止策30』(以上、労務行政)、『総務担当者のための産休・育休の実務がわかる本』『社会保険の手続きがサクサクできる本』(以上、日本実業出版社)などがある。 【労務ドットコム】

宮武貴美(特定社会保険労務士) 協力:日本実業出版社

日本実業出版社
2022年3月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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