「自分で書いた小説を、自分で発注、納品、販売」 現役書店員の芥川賞作家・佐藤厚志、受賞後の“仕事ぶり”をリポート!

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東北新幹線「はやぶさ」に乗り込み、とりあえず一息

■現役書店員の芥川賞受賞

 第168回芥川賞・直木賞の選考会が行われたのは、1月19日のこと。芥川賞は井戸川射子(いこ)さん(35)と佐藤厚志さん(40)、直木賞は小川哲(さとし)さん(36)と千早茜さん(43)に決まった。

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『荒地の家族』(新潮社刊)で芥川賞を射止めた佐藤さんは、宮城県仙台市出身。仙台駅前にある〈丸善仙台アエル店〉で働く、現役の書店員でもある。

 受賞決定直後から都内で延々と続いた取材対応。ろくに睡眠も取れないまま、迎えた翌20日の夜には、もう東北新幹線で仙台へ向かう。書店の勤務シフトが入っているのだ。

 受賞作の発売日は、選考会と同じ19日。むろん発売時点ではまだ「芥川賞候補作」だったわけだが、自店の従業員の本とあって、仙台アエル店では初版200冊を入荷。それでも、受賞が決まると一瞬で売り切れに。


出社した途端、クラッカーとくす玉でお出迎え

■自分で書いた小説を、自分で発注、納品、販売

 そこに、受賞者兼従業員の佐藤さんが東京から戻ってくる。まさに渡りに船! 佐藤さんは店長の命を受け、版元にわずかに残っていた予備の在庫35冊を書店員として“発注”し、伝票とともに両手で抱えて新幹線に乗り込んだ。

 21日午後に凱旋出社した佐藤さんは、同僚の温かい祝福を受けつつ、すぐさま納品した自著の“入荷確定作業”に取り掛かった。予約注文が殺到していたため、35冊は予約客に先着順で割り振る。

 自分で書いた小説を、自分で発注して自分で納品し、自分で販売するという、異色の芥川賞作家が杜の都に誕生した。

 受賞作では仙台を舞台に、震災で大切なものを失った男を描いた。「これからも自分にしか書けない小説を書きたい」と語る佐藤さん。同時に、本が好きなので書店員も続けたいという。

【次ページ】>>芥川賞・直木賞受賞者を紹介

デイリー新潮
2023年1月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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