「甘いものがないとイライラ…」医師が伝える“糖質依存”の危険性とは?【前編】

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つい仕事の合間に甘いもの食べてません?

「甘いものを食べないとイライラする」

 もしこのように感じるのなら、あなたは“糖質依存”かもしれない―― 。

 甘いものがないと落ち着かない、そんな毎日から自由になって健康で幸せになろうとする人を応援したい。著書『死ぬまで若々しく元気に生きるための賢い食べ方』(あさ出版)でこう語るのは、医師の山下あきこ氏だ。医学博士で神経内科の専門医である山下氏は、大学病院の内科医や米国留学を経て、糖質に頼らない生き方を提唱している。

 目指すべきは単に糖質を断つのではなく、甘いものがないとイライラしてしまう“糖質依存”からの脱却だという。なぜ“糖質依存”が危険なのか、どうすれば依存しない食生活を送れるのか。本書をもとに前後編にわたって、“賢い食べ方”を探ってみる。

(以下は『死ぬまで若々しく元気に生きるための賢い食べ方』をもとに再構成したものです)

※この記事は前編です(後編を読む)。

いつものお菓子やジュースにも酒やたばこのような依存性

 現在日本人の肥満の割合は男性で33・0%、女性で23 ・3%です。糖尿病で死亡する人は年間1万4千人、糖質過多が原因となる非アルコール性脂肪肝疾患は2000万人を超えています。これらの疾患が発展して、脳梗塞や心筋梗塞になり、早期死亡や要介護状態につながっているのです。

 知らない間に依存を引き起こし、習慣的に食べ続け、気づいたら健康被害が深刻になっている……というのが糖質のブラックな本性です。現代の日本では至る所に甘いものがあり、買い物のついでにおやつを買うことができます。新しいスイーツが次々にブームとなり、誘惑も沢山あります。

 また、私たちは、幼少期から栄養バランスのメインは糖質として教育されてきました。栄養の50~60%は糖質から摂りましょうと言われ、いくら運動量が少ない子どもたちが増えてもその教えは変わっていません。そして、いつしか日本でも、肥満の子どもが増えてきました。
 
 お酒やタバコの依存性は簡単に理解できるかもしれませんが、いつも食べている可愛らしいお菓子やジュースに、このような依存の罠があることはあまり知られていません。そんな中に暮らす私たちが、糖質依存にならないでいることは可能なのでしょうか。

脳のエネルギーは糖質だけじゃない

 食育に関する冊子などを見ると、「脳のエネルギーは糖質だけ! だから朝はご飯やパンを食べよう」と書いてあります。確かに糖質は脳のエネルギーになりますが、エネルギーは糖質だけではないのです。

 脳や体の他の多くの組織は、糖質がなくてもケトン体をエネルギーにできます。糖質を控えると、中性脂肪からケトン体を作ることができます。糖質(ブドウ糖)からは36個、脂肪酸からは129個のエネルギー物質が作られますので、糖質より脂質の方が、エネルギー産生効率は3倍すぐれているのです。

 ケトン体は、健康長寿をもたらす物質として注目されています。老化防止、肥満の改善、糖尿病やがんの予防や改善、アルツハイマー病などの脳機能の改善、メンタル不調の改善など、様々な効果を持っています。ケトン体を増やすと、体脂肪や中性脂肪が減って健康的に痩せることができます。

 一方、糖質の摂り過ぎは多くの病気のリスクを高めますが、一般的な医師や栄養士は生化学の教科書で「脳はブドウ糖しかエネルギーにできない」と学んできました。しかし、ブドウ糖が不足すると、脂肪やタンパク質を分解して血糖値が維持されるシステムがあって、さらに糖質が体内に入ってこないとケトン体をエネルギーとして使うようになるということも解明されています。

 ただ、ケトン体が利用されるほど糖質を食べない生活をしている人はあまり多くなかったことから、そのメリットについてあまり意識を向ける人がいなかったと考えられます。だから、糖質制限をするとエネルギー不足を起こして危険だと言われることもありますが、そんなことはないのです。

 人間が農耕を始める前は、小麦や米をこんなにたくさん食べることはありませんでした。人の体は、大量に糖質を摂らなくても生きていけるのです。もともとエネルギーとしてのケトン体を作るシステムを私たちは持っているので、その働きを呼び覚ますだけで、心と体はもっともっと元気になれます。

甘いものの食べ過ぎで逆にストレス増加

 よく耳にする「ストレス解消のために甘いものを食べる」という意見。ストレス解消のために、お酒やタバコという意見も多く聞きます。いいことだとは思っていないけれど、ストレスがあるからしょうがない、と言われます。

 しかし、それは間違っています。甘いもの、お酒、タバコがストレスを解消しているのではありません。逆に、甘いもの、お酒、タバコをいつも体に取り入れていると、体のストレスが増加するのです。

 例えば、甘いものを食べると、脳で快楽を感じるようなホルモンがドバッと出て、数分で消えていきます。このドバッと快楽を感じる瞬間は、はっきりと高揚感があるので、ストレスが消えたような錯覚を覚えるのです。

 甘いチョコレートを食べたとき、一口目は甘くて美味しいと感じても、2個、3個と食べている間、ずっと幸福感があるでしょうか? はじめの一口の快感がすぐに消えるので、もっと食べたらもっと快感が得られるだろうと脳が感じて、次々と口に入れようとするのです。

 ただし、たくさん食べたらその後も長く幸せでいられるということはありません。食べるのをやめたら、すぐに元に戻ります。そうして毎日何度も甘いもので快楽ホルモンの多量分泌を繰り返していると、普段のホルモン分泌量が少なくなって、幸福のレベルが低くなり、逆にストレスを感じやすい状態になってしまうのです。

 ***

 “糖質依存”に陥りやすい現代の状況とその危険性について、山下あきこ氏はこう語ったが、どうすれば依存から脱却することができるのか。
 後編では、積極的に摂りたい栄養素や、一見健康的に見える「低カロリー」「低脂肪」の罠を紹介していく。

後編:「糖質依存」をやめて… 医師が語る“元気に生きる”ための「賢い食べ方」とは? を読む

山下 あきこ
医学博士、内科医、神経内科専門医、抗加齢医学専門医。 1974年佐賀県生まれ。1999年川崎医科大学卒業、2001年~福岡大学病院脳神経内科勤務、2005年~フロリダ州メイヨークリニックジャクソンビル神経内科留学、2007年~佐賀県如水会今村病院神経内科医長などを経て、病気を治すより、人々が健康づくりを楽しむ社会を目指し、2016年に株式会社マインドフルヘルスを設立。アンチエイジング医学、脳科学、マインドフルネス、コーチングを取り入れたセミナー、企業研修、個人健康コンサルティング等を行っている。自分自身の習慣作りと人に伝える活動ができるマインドフル・ライフコーチの講座が好評。「ZIP!」「世界一受けたい授業」(日本テレビ系)など、メディア出演も多い。

あさ出版
2023年2月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

あさ出版

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