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- 金木犀とメテオラ
- 価格:792円(税込)
12歳の春。東京出身の宮田佳乃は、家庭の事情で北海道にある中高一貫の女子校に入学する。しかし、秀才でプライドが高い彼女には、受け入れ難い進路だった。一方、地元出身の奥沢叶も、新入生総代に選ばれるほどの優等生。パッと目を引く美少女で誰もが羨む存在だが、周囲には知られたくない“秘密”があり……。
思春期の焦燥や嫉妬、葛藤をふたりの視点で描く青春長編『金木犀とメテオラ』(安壇美緒・著)より一部を公開します。
***
宮田佳乃 十二歳の春
1
正方形の格子窓から、春の光が覗いていた。昨夜まで降り続いた雪は朝方に止み、生徒たちが登校してくる時間帯にはもう路面に溶け始めていた。
「この度、めでたく築山(つきやま)学園の一期生となりました皆さんにふさわしい、晴天に恵まれましたことをおろよこび、あ、失礼、およろこ、お慶び、申し上げます」
壇上で話す来賓の舌がもつれると、ほうぼうから笑いが漏れた。真新しい制服を着た女子中学生たちは、まだ声色もあどけない。静粛に、と進行を務める教師がそれを叱ると、漆喰の丸天井のホールの中にはまた静けさが戻った。
西洋の意匠を凝らしたこの建物は、元々は明治の昔に北へ流れてきた宣教師たちが拠点にした場所であるらしく、それから酒場になり、和菓子屋に変わり、取り壊しの憂き目を逃れて、敷地ごと築山学園に買い取られた。
この新設校は北海道内外から広く生徒を募っている。
宮田佳乃(よしの)は、射るような目で壇上を睨みつけていた。宮田が睨んでいるものは、話の長い来賓の市議ではなかった。その少しあとの未来を、宮田はあらかじめ睨んでいた。
来賓挨拶のあとには、入学生代表挨拶がある。
別に人前に出ることが好きなわけではない。式典で作文を読み上げるのなんて、好き好んでやりたいことではない。
だが、それは普通、入試成績一位の者が任されるものではなかったか?
長らく続いた来賓挨拶が終わると、力のない拍手が響いた。一期生三十五名と、その保護者と教職員だけの拍手は、小さなホールの中でもか細い。生徒たちはみな飽き始めてしまったようで、目線を横へ下へと散らばせていた。
続きまして、と進行役の教師がマイク越しに言った瞬間、宮田は小さな奇跡を信じた。
突然、自分の名前が呼ばれるという奇跡を。
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