圧巻の伏線回収 ! いま1番読みたい新時代の就活 ミステリ! 浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』試し読み

試し読み

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成長著しいIT企業「スピラリンクス」が初めて行う新卒採用。最終選考に残った六人の就活生に与えられた課題は、一カ月後までにチームを作り上げ、ディスカッションをするというものだった。全員で内定を得るため、波多野祥吾は五人の学生と交流を深めていくが、本番直前に課題の変更が通達される。それは、「六人の中から一人の内定者を決める」こと。仲間だったはずの六人は、ひとつの席を奪い合うライバルになった。内定を賭けた議論が進む中、六通の封筒が発見される。個人名が書かれた封筒を空けると「●●は人殺し」だという告発文が入っていた。彼ら六人の嘘と罪とは。そして「犯人」の目的とは――。
 
映画化決定で話題の本書より、冒頭部分を特別公開いたします。

 ***

 もうどうでもいい過去の話じゃないかと言われれば、そのとおりなのかもしれない。

 それでも僕はどうしても「あの事件」に、もう一度、真摯(しんし)に向き合いたかった。あの 嘘みたいに馬鹿馬鹿しかった、だけれどもとんでもなく切実だった、二〇一一年の就職活動で発生した、「あの事件」に。調査の結果をここにまとめる。犯人はわかりきっている。今さら、犯人を追及するつもりはない。

 ただ僕はひたすらに、あの日の真実が知りたかった。

 他でもないそれは、僕自身のために。

波多野 祥吾(はたの しょうご)

Employment examination ─就職試験─

1

「最終選考は、グループディスカッションになります」

 思わずにやりと笑ってしまったのは、言わずもがな嬉(うれ)しかったからではない。嫌な顔をすれば人事に悪い印象を与えるに違いないと踏んだだけで、できることならため息をついて天を仰ぎたいところであった。

大丈夫大丈夫、最終選考まで進めたら、あとはだいたい役員に挨拶(あいさつ)して終わりってのが相場なんだよ。だから内定はもらったも同然。祥吾おめでとうな──サークルの先輩の無責任な言葉を馬鹿正直に信じていたわけではない。少し重めの面接がもう一つ、ひょっとすると二つほど用意されているかもしれない程度の覚悟はしていた。ただ最後の最後にグループディスカッションがあると言われれば、これは完全に意表を突かれたとしか言いようがない。さすがスピラリンクスだ。

 他の学生はどんな反応をしているだろう。興味がないわけではなかったが、きょろきょろ視線をさまよわせるのは得策とは思えなかった。どんな些細(ささい)な所作が、今日まで地道に積み上げてきた評価を暴落させてしまうかわからない。僕が会議室に入ってから一度も 頬をぽりぽりと 掻(か)かないのは、膝(ひざ)に載せた握りこぶしをほどいて肘(ひじ)かけの上に移動させないのは、間違ってもよく躾(しつ)けられた育ちのいい人間だからではない。おそらく残り数メートルまでたぐり寄せた勝ち組への切符を、くだらない理由で手放したくないからだ。

浅倉 秋成(あさくら あきなり)
1989年生まれ、小説家。関東在住。第十三回講談社BOX新人賞Powersを『ノワール・レヴナント』で受賞しデビュー。『教室が、ひとりになるまで』で推理作家協会賞の長編部門と本格ミステリ大賞の候補作に選出。その他の著書に『フラッガーの方程式』『失恋覚悟のラウンドアバウト』『六人の嘘つきな大学生』など。

KADOKAWA カドブン
2023年7月 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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