圧巻の伏線回収 ! いま1番読みたい新時代の就活 ミステリ! 浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』試し読み
試し読み
-
- 六人の嘘つきな大学生
- 価格:814円(税込)
成長著しいIT企業「スピラリンクス」が初めて行う新卒採用。最終選考に残った六人の就活生に与えられた課題は、一カ月後までにチームを作り上げ、ディスカッションをするというものだった。全員で内定を得るため、波多野祥吾は五人の学生と交流を深めていくが、本番直前に課題の変更が通達される。それは、「六人の中から一人の内定者を決める」こと。仲間だったはずの六人は、ひとつの席を奪い合うライバルになった。内定を賭けた議論が進む中、六通の封筒が発見される。個人名が書かれた封筒を空けると「●●は人殺し」だという告発文が入っていた。彼ら六人の嘘と罪とは。そして「犯人」の目的とは――。
映画化決定で話題の本書より、冒頭部分を特別公開いたします。
***
もうどうでもいい過去の話じゃないかと言われれば、そのとおりなのかもしれない。
それでも僕はどうしても「あの事件」に、もう一度、真摯(しんし)に向き合いたかった。あの 嘘みたいに馬鹿馬鹿しかった、だけれどもとんでもなく切実だった、二〇一一年の就職活動で発生した、「あの事件」に。調査の結果をここにまとめる。犯人はわかりきっている。今さら、犯人を追及するつもりはない。
ただ僕はひたすらに、あの日の真実が知りたかった。
他でもないそれは、僕自身のために。
波多野 祥吾(はたの しょうご)
Employment examination ─就職試験─
1
「最終選考は、グループディスカッションになります」
思わずにやりと笑ってしまったのは、言わずもがな嬉(うれ)しかったからではない。嫌な顔をすれば人事に悪い印象を与えるに違いないと踏んだだけで、できることならため息をついて天を仰ぎたいところであった。
大丈夫大丈夫、最終選考まで進めたら、あとはだいたい役員に挨拶(あいさつ)して終わりってのが相場なんだよ。だから内定はもらったも同然。祥吾おめでとうな──サークルの先輩の無責任な言葉を馬鹿正直に信じていたわけではない。少し重めの面接がもう一つ、ひょっとすると二つほど用意されているかもしれない程度の覚悟はしていた。ただ最後の最後にグループディスカッションがあると言われれば、これは完全に意表を突かれたとしか言いようがない。さすがスピラリンクスだ。
他の学生はどんな反応をしているだろう。興味がないわけではなかったが、きょろきょろ視線をさまよわせるのは得策とは思えなかった。どんな些細(ささい)な所作が、今日まで地道に積み上げてきた評価を暴落させてしまうかわからない。僕が会議室に入ってから一度も 頬をぽりぽりと 掻(か)かないのは、膝(ひざ)に載せた握りこぶしをほどいて肘(ひじ)かけの上に移動させないのは、間違ってもよく躾(しつ)けられた育ちのいい人間だからではない。おそらく残り数メートルまでたぐり寄せた勝ち組への切符を、くだらない理由で手放したくないからだ。
株式会社KADOKAWA「カドブン」のご案内
【カドブン】“新しい物語”に出会える場所がここにある。オリジナル連載・作家インタビュー・話題作のレビューや試し読みを毎日更新!話題作&ベストセラーの魅力を徹底紹介していきます。
関連ニュース
-
NHK Eテレで人気のスローライフ番組「やまと尼寺 精進日記」番組本三冊目が発売[ノンフィクションベストセラー]
[ニュース](自己啓発/家事・生活)
2022/12/10 -
辻村深月「一番の自信作」コロナ禍でままならない思いを抱える中高生を描いた最新作『この夏の星を見る』が初登場[文芸書ベストセラー]
[ニュース](日本の小説・詩集)
2023/07/08 -
北方謙三に「作家を目指すなら一作を三ヶ月で書き上げなければいけない」と煽られた今村翔吾「ひと月で充分です」と応えデビュー作をわずか一ヶ月で書き上げる[文芸書ベストセラー]
[ニュース](日本の小説・詩集/ライトノベル/歴史・時代小説/SF・ホラー・ファンタジー)
2022/04/09 -
池井戸潤の超毒舌小説が帰ってきた コロナ禍に渦巻く陰謀論を笑い飛ばす『民王 シベリアの陰謀』がベストセラーランキング1位
[ニュース](日本の小説・詩集/ライトノベル/経済・社会小説/エッセー・随筆/教育学)
2021/10/09 -
「あざといに飽きない」卒業後もアイドル全開! ちっちゃい“まなかん”が1位獲得[書泉・女性タレント写真集売上ランキング]
[ニュース](タレント写真集)
2023/09/16