【話題の本】『ウクライナ戦争はなぜ終わらないのか デジタル時代の総力戦』高橋杉雄編著

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■安保戦略面から俗説を斬る

ロシアによるウクライナ全面侵攻開始から1年半近くがたつ。関連書もかなり出そろってきたが、その質は玉石混交。高名な「ロシア通」が陰謀論まがいの言説を並べた本も出回る中で、「米国が仕組んだ代理戦争」などの臆説を排し、安全保障戦略の面からこの戦争を明晰(めいせき)に読み解いた本書が注目されている。

編著者は各メディアでおなじみの防衛研究所防衛政策研究室長。6月下旬に初版1万部でスタート。硬派な内容ながらすぐ重版がかかり、現在1万5000部と好調だ。

なぜ終わらないのかとの問いに答えるには、なぜ始まったかを考える必要がある。根本にあるのは旧ソ連的な勢力圏の再構築を目指すロシアと、それを拒否して欧州の一部となる道を選んだウクライナとの「アイデンティティを巡る戦争」であり、落としどころは困難だ。よって終わり方は①その時点での戦線を固定化した停戦②領土割譲とNATO(北大西洋条約機構)加盟容認などの取引③突発事態によるロシアの継戦断念-の3通りになるが、短期的にはいずれも道筋が見えないとする。

日本への教訓として「大切なのは『戦争を始めさせない』こと」という端的な一言が、重い。(文春新書・1045円)

磨井慎吾

産経新聞
2023年8月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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