「思わず声をあげてしまった。ミステリとして一流、実にテクニカル」直木賞受賞作『木挽町のあだ討ち』は時代ミステリであり「フィクションに救われた人たちの物語」[文芸書ベストセラー]

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 8月8日トーハンの週間ベストセラーが発表され、文芸書第1位は『ハンチバック』が獲得した。
 第2位は『青瓜不動 三島屋変調百物語九之続』。第3位は『木挽町のあだ討ち』となった。

 今週も7月19日に発表された第169回芥川賞・直木賞の受賞作3作がランクイン。1位の『ハンチバック』は芥川賞を受賞。3位の『木挽町のあだ討ち』、4位の『極楽征夷大将軍』はどちらも直木賞受賞作。

『木挽町のあだ討ち』で描かれるのは、芝居町として知られる木挽町で行われた仇討ちの顛末。物語は仇討ちの二年後、木挽町で生きる人々がある若い武士に当時の話を聞かせていくスタイルで進む。武士は木戸芸者や殺陣師、女形、小道具を作る職人や劇作者ら仇討の目撃者に顛末を聞くととともに、彼らがそれぞれどのように生きてきたかも教えて欲しいと頼み込む。仇討の経緯や背景が明らかになるだけでなく、目撃者の話す自身の過去からはあるテーマが浮かび上がる。

 書評家の大矢博子さんは同書を《これは芝居に救われた人たちの物語》と一言であらわす。目撃者たちには《ひとりひとりにまったく異なるドラマがあり、涙や怒りや虚無があり、けれどそれを乗り越えて今日を生きている。何度も胸が詰まった。》と紹介。そんな彼らは一様に芝居と関わることで救われており《フィクションに救われた彼らの〈物語〉は、そのまま読者である私たちを救ってくれる。だから私は小説を読むのだと、小説を紹介する仕事をしているのだと、すとんと腹に落ちた気がした。》と自身の気持ちも救われたと述べる。さらには《ところが驚くべきことに、この物語にはその先があるのだ。第五話の途中で思わず声を上げてしまった。そこにつながるのか、そういうことか。物語は終盤で大きくその様相を変える。》《本書は時代ミステリとしても一流だとだけ言っておこう。実にテクニカルだ。》と同書が高い評価を受けた理由を解説している。

1位『ハンチバック』市川沙央[著](文藝春秋)

第169回芥川賞受賞。選考会沸騰の大問題作!「本を読むたび背骨は曲がり肺を潰し喉に孔を穿ち歩いては頭をぶつけ、私の身体は生きるために壊れてきた。」井沢釈華の背骨は、右肺を押し潰すかたちで極度に湾曲している。両親が遺したグループホームの十畳の自室から釈華は、あらゆる言葉を送りだす――。(文藝春秋ウェブサイトより)

2位『青瓜不動 三島屋変調百物語九之続』宮部みゆき[著](KADOKAWA)

行く当てのない女達のため土から生まれた不動明王。悲劇に見舞われた少女の執念が生んだ家族を守る人形。描きたいものを自在に描ける不思議な筆。そして、人ならざる者たちの里で育った者が語る物語。恐ろしくも暖かい百物語に心を動かされ、富次郎は決意を固める──(KADOKAWAウェブサイトより)

3位『木挽町のあだ討ち』永井紗耶子[著](新潮社)

ある雪の降る夜に芝居小屋のすぐそばで、美しい若衆・菊之助による仇討ちがみごとに成し遂げられた。父親を殺めた下男を斬り、その血まみれの首を高くかかげた快挙は多くの人々から賞賛された。二年の後、菊之助の縁者という侍が仇討ちの顛末を知りたいと、芝居小屋を訪れるが――。現代人の心を揺さぶり勇気づける令和の革命的傑作誕生!(新潮社ウェブサイトより)

4位『極楽征夷大将軍』垣根涼介[著](文藝春秋)

5位『すべての恋が終わるとしても -140字の恋の話-』冬野夜空[著](スターツ出版)

6位『可燃物』米澤穂信[著](文藝春秋)

7位『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 12』三嶋与夢[著](マイクロマガジン社)

8位『ハヤブサ消防団』池井戸潤[著](集英社)

9位『いつまで』畠中恵[著](新潮社)

10位『汝、星のごとく』凪良ゆう[著](講談社)

〈文芸書ランキング 8月8日トーハン調べ〉

Book Bang編集部
2023年8月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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