昨年8月、文部科学省が全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果を公表した。ここで注目されたのが、中学3年生の英語の成績。「話す」技能を問うテストでは、全問不正解の生徒が6割を超えたというのだ。
「日本の英語教育は読み書き偏重だ。もっと会話を中心に」といった主張を聞くようになって久しいが、状況はまったく変わっていないどころか、後退しているかのようなのだ。
英語で話しかけられてマゴマゴする日本人――かつてはそんな姿が毎朝、テレビで流されていた。昭和を知る人なら懐かしく思い出すだろう。人気番組「ズームイン!!朝!」の名物コーナー「ウイッキーさんのワンポイント英会話」である。
町で突然、ウイッキーさんに声をかけられて慌てふためく様を見て、英会話への意欲を燃やした方もいるに違いない。
ある時期、間違いなくウイッキーさんこそが英会話の伝道師だった。
そのウイッキーさん、そもそもどこから何をしに来た人なのか、どうしてああいう仕事になったのか。番組が終わったあと、何をしているのか。
本人が半生や秘話を語りつくしたのが『シリーズ「時代の証言者」 グッド・モーニング! ウイッキーさんの街角エイゴ』(読売アーカイブ選書)である。
ウイッキーさんは、1936年、英領セイロン(現スリランカ)生まれ。漁業・海洋資源省の職員をしていた頃、日本から来た技術指導者に「どこか進んだ国に行って基礎から勉強すべきだ」と言われたことをきっかけに、日本の文部省が創設した「国費外国人留学生招致制度」に応募して見事合格する。
苦学しながらアルバイトで英会話講師をしていた彼は、テレビ業界にも知人を得るようになり、番組の通訳も依頼されるようになった。そんな中で1979年、日本テレビが朝の大型情報番組を始めることに。これが大きな転機となったのだ――(以下、同書より引用)。
***
日本テレビ系「木曜スペシャル」の通訳の仕事を引き受けてから数年が経過した頃のことです。通訳の仕事を引き受ける仲立ちとなった東阪企画社長の澤田隆治さんが、新しい朝の番組で総監督を務めることを知りました。
〈1979年3月5日午前7時、日本テレビの系列局を全国ネットの生中継でつないだ民放初の情報番組「ズームイン!!朝!」がスタート。総合司会は徳光和夫アナウンサーだった〉
私が知ったのは、放送開始がかなり近づいてからです。番組には、団地などを回り、不要なおもちゃを引き取ってオークションにかけ、そのお金を寄付しようという「愛のオモチャリティー」というコーナーがありました。
放送にあたっての準備で「時間を持て余し気味だ」という制作側の判断があり、コーナーを数分短くすることにしたというのです。その空いた時間を埋めるため、5分程度の英会話コーナーを検討していると聞きました。
当初の構想では、外国人女性を使って、銀座や丸の内のサラリーマンに英語で問いかけ、そのリアクションを撮りたかったようです。木曜スペシャルの縁で、私はその女性を選ぶオーディションで通訳を務めることになりました。
ところが、人選がうまくいきません。オーディションに来た人たちは英語の先生が多く、普段数千円の時給を稼いでいます。数分のコーナーでは、たいした稼ぎにならないと感じたのでしょう。しかも朝が早い。次々と断られました。
「絶対に本番には出さない」
もう2月も半ばを過ぎていました。放送開始まで時間もないので私が代わりに出演し、日テレに見せるための試作版を作ることになりました。制作側から「絶対にあなたは本番には出さないよ」と言明された上で、です。
撮影場所は、旧国鉄(現JR東日本)の王子駅だったと思います。その場で、質問を何か考えるように言われ、ちょうど確定申告の時期だったので、「Where can I pay my tax?(どこで税金を払えますか)」と聞くことにしました。もちろんぶっつけ本番です。全然、誰も止まりません。私を見ると逃げるんですよ。
すると、ディレクターが「あと2分しかないから、誰か絶対に止めろ」と焦っています。
仕方なく、前方から来た2人連れの年配の女性に声をかけました。1人は逃げてしまい、もう1人が私に気づいてくれて「OK、OK」と答えてくれました。
安心したのもつかの間、その女性は私の手をぐいぐい引いて、タクシーのところまで連れて行きました。taxをtaxiだと思ったのでしょう。番組の時間は残りわずか。タクシーに乗せられて困っている私の顔で終わりました。
予想外の「落ち」が付いたおかげで日テレ側の感触は良く、「彼だったら何とかなるんじゃないの」と言っていたそうです。それでも、澤田さんは私を出すことには最後まで反対でした。
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