女性アイドルの「使い捨て」を問題視 アイドルたちから信頼される人気振付師竹中夏海が「教え子を守りたい」

ニュース

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク


竹中夏海さん(佐藤俊和撮影)

 2023年6月、モーニング娘。やAKB48の振り付けを手掛けた夏まゆみさんが亡くなった。彼女の訃報を受け、多くの芸能人が哀悼の意を表した。なかでも彼女を恩師と仰ぐモーニング娘。の新旧メンバーたちの悲しみは深く、それぞれが自身のブログやSNS、お別れの会などで心からの感謝と悲痛な思いを吐露していた。

 ここまで彼女たちに影響を与えたのは「振付師」という仕事の特殊性もあるのだろう。結成したてで不安を抱えた下積み時代のアイドルと向き合い、叱咤激励しながら親身になって指導をし、同じ時を過ごす。なかなか芽が出ないなかでメンタルにも問題がでてしまうアイドルも当然いるだろう。アスリート並みに歌い踊る彼女たちの健康面にも目を配り、人気が出たときの喜びもともに味わっていく。まさに“病めるときも健やかなるときも”の世界だろう。

 PASSPO☆やHKT48、=LOVEなど300人ものアイドルを担当してきた人気振付師の竹中夏海さん(38)は、自らが芸能活動をしていたころの辛い経験から、女性アイドルの健康問題について積極的に発信している。彼女は振付師として活動を始めたきっかけと教え子たちに対する思いを『30代 私たちの挑戦 Vol.2』(読売アーカイブ選書)で語っている。(以下、引用はすべて同書より)

 ***

子役として活動

 モダンバレエを習う傍ら、児童劇団に所属し、小学5年の夏に「美少女戦士セーラームーン」のミュージカルに出演しました。稽古期間中だけ東京都内の祖母宅に居候させてもらいました。転校先ではいじめの標的に。初めての芸能活動に「自分はダメ」と思うことも度々で食欲がわかず、お風呂でぼーっとする日も多かった。

 今思えば、心の病気だったのかもしれません。親元を離れて芸能活動をした経験は私の原点です。アイドルの子たちが、かつての自分の姿と重なります。

 子役をやめ、中高時代はチア部などで踊りの振り付けに熱中。振付師を目指し体育大を出たものの進路を定められないままダンス教室で働く日々でした。

 転機が訪れたのは25歳の時です。歌番組で見た女性アイドルグループのダンスがかわいく、ファンになりました。客席も一緒になって踊る様子に、「これが私がやりたかったダンスだ」と衝撃が走りました。

頼られる振付師

 芸能事務所に売り込み、結成したてのグループの振り付けを担当できることになりました。指導するうちに、生理や摂食障害など、健康面の相談を受けるように。私自身、生理痛軽減のために低用量ピルを飲んでいましたが、「詳しく教えて」という声も多かった。

 ステージでは、アスリートに負けないくらいの運動量があるのに、運営は男性中心。「わがままだと思われたくない」と体調不良を我慢する子も多くいました。

 特に2010年代はアイドル戦国時代。華やかな舞台の裏で、無理なダイエットや心身の酷使で体を壊し、業界を去る子も少なくなかった。アイドルは「若い時だけ」「使い捨て」という印象を持たれがちですが、そんな業界に未来はない。

 アイドルはファンタジーをまとった存在で、健康などのリアルな問題は縁遠く思われがちですが、若い女性たちが生理や体作りなどを学べるように、2021年に本を出しました。 昨年9月には、健康管理などに役立つアイドル専用のジムも開設。自分の心や体に向き合い、何でも相談できる場を作りたかったのです。

 自分が子役時代に抱いた不安や孤独を、今の子たちには感じさせたくない。教え子を守りたい気持ちはずっとありましたが、ようやく自分の課題意識を言語化できるようになりました。目指すのは、若い人の味方になれる中年。頼ることは悪いことではないよ、と伝え続けたいです。

 ***

 竹中さんは2021年アイドルの健康問題をはじめて扱った『アイドル保健体育』(CDジャーナルムック)を出版。見えないものとされてきた女性アイドルの心と体に寄り添う発信を続けている。

『30代 私たちの挑戦 Vol.2』は様々な世界で活躍する30代の女性たちに、同世代女性記者がインタビューをした読売新聞の人気連載「30代の挑戦」を一冊にまとめたムック。竹中さんの他、作家の金原ひとみさんや新川帆立さん、俳優でドラマーのシシド・カフカさん、総合格闘家のリカ・イシゲさん、元宝塚の天真みちるさん、マンガ家の島袋全優さんらのインタビューが掲載されている。

Book Bang編集部
2024年9月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク