『山ぎは少し明かりて』
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【聞きたい。】辻堂ゆめさん 『山ぎは少し明かりて』
[文] 三保谷浩輝
■私のふるさとは日本なんだ
祖母、娘、孫の3代を通して郷土愛、家族愛を描いた大河小説。
自然豊かな瑞ノ瀬村で育った佳代は戦争を乗り越えて幼なじみと結婚し、幸せに暮らしていた。だが村にダム建設計画が浮上し、反対運動に加わる。佳代の娘・雅枝は不便な村の生活を嫌悪し、村を出て仕事に打ち込む。雅枝の娘・都は海外留学に挫折し、悶々(もんもん)とした日々を過ごすが…。
都から時代をさかのぼる3部構成でそれぞれの「ふるさと」への思いが交錯する。
「3世代をつなげて書くことで、孫から祖父母まで、お互いを身近に感じてもらえるかなと、この形に。私も祖父母や両親世代の理解が深まり充実した執筆体験でした」
一方で、「たった3世代で失われたもの、変わったこともある」。例えば、土地への思いや慣習など先祖伝来の考え方。「先祖からの流れを大切にして次の世代に引き継いでいくという考えは、なくなりつつある。時代の流れですが、若い人も、昔をただ否定するのではなく、そういう時代が最近まであったと思いをはせ、尊重してほしい」
ダムの底に沈んだ村の記録から、「どんなに不便な土地でも、そこで血縁をつないでいくことが大事。ふるさとが一番のアイデンティティーだったんだ」と気づいて佳代の気持ちが分かったとも。
自身は父親の仕事で国内外に移り住み、「ふるさと」と呼べる地はないという。だが今作で、「私のふるさとは日本なんだと思った。日本語、日本の文化が好きで、この国で暮らし続けたい」と足元を見つめ直した。「災害も多いけど、いつまでもあり続け、いつでも帰れる場所であってほしい」と願う。
「家族」もテーマの一つ。「人に言われて気がついたのですが、私はどの作品でも家族(描写)が顔を出すと。自分が(2歳と4歳の)子育てをしているからか、家族以外にはない、密な関係は書きがいがあります」
これまでの作品はミステリーが多い。ミステリーではない今作も「やっぱり仕掛けは入れたい」と各章に謎を置き、最後にうならせる。(小学館・1870円)
三保谷浩輝
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【プロフィル】辻堂ゆめ
つじどう・ゆめ 平成4年、神奈川県生まれ。東京大卒。「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞作『いなくなった私へ』で27年にデビュー。令和4年、『トリカゴ』で大藪春彦賞。『十の輪をくぐる』など著書多数。