『未解決殺人クラブ』
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『未解決殺人クラブ 市民探偵たちの執念と正義の実録集』ニコラ・ストウ著
[レビュアー] 宮部みゆき(作家)
素人が解くリアル犯罪
ミステリー小説のなかでは、たとえばイギリスの長閑(のどか)な村に住むおばあさんでも、豊かな人生経験から生まれる洞察力を武器にして名探偵になれる。その眼力を逃れられる犯人はいない。
でも現実の世界では、そんな痛快なことはあり得ない。捜査機関が解決できない事件の謎を素人が解くなんて、フィクションだけのことだ。
そう思ってきた。この世にインターネットという優れた情報ツールが登場し、多くの人びとがそれを縦横に使いこなすようになるまでは。
本書に登場する市民探偵たちは、フィクションのお話の枠に収まらない、剥(む)き出しに凄惨(せいさん)なリアル犯罪と向き合っている。著者はジャーナリストで、多くの市民探偵たちにインタビューすることにより、その調査活動と、事件にのめり込みすぎて憑(つ)かれてしまう苦しみまでもつぶさに著している。全12章で取り上げられている事件のなかには、S・キングのホラー小説『IT』に登場する恐怖のピエロのモデルとなったジョン・ウェイン・ゲイシーや、「黄金州の殺人鬼」の通り名で恐れられ、四十年も捜査の手を逃れ続けた連続殺人者などもいれば、人違いで無関係な男女を撃った粗忽(そこつ)なギャングや、ウエブ上に猫の虐待動画をアップしている残酷な人間もいる(ちなみにこの虐待動画の追跡は、悪夢のような展開を遂げてゆく)。
未解決事件の犯人捜しだけでなく、身元不明の被害者に名前という尊厳を取り戻そうとか、遺伝子系図によって連続殺人事件の被害者の身元を特定して、行方不明者の家族の終わりのない不安にけりをつけようとか、様々なアプローチをする市民探偵たち。しくじることもあるし、名声や賞賛を求めていては続かない。ただ、21世紀の世界に住む市民は、正義を求め悪に立ち向かうために、それ以前と比べたら多様な選択肢を与えられているのだ――という実感を得ることはできるのかもしれない。そこにこそ意味があるのか。村井理子訳。(大和書房、2640円)