昼夜の気温差300度の「月」、二酸化炭素96%で呼吸困難な「火星」…ヒトは宇宙で暮らせるか?

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実は過酷な月の環境

 岸田首相が訪米中の4月、日米の宇宙協力における「重大発表」として話題になった「アルテミス計画」。

「アルテミス計画」とは、アメリカ主導の国際月探査プロジェクトで、「アポロ計画」以来およそ半世紀ぶりに月へ宇宙飛行士を送り込むことを目指している。2026年9月に宇宙飛行士が月面に降り立つ予定で、そこには日本の宇宙飛行士も含まれており、日本人初の月面着陸が期待されている。

 さらに5月17日にはJAXAが「月面天文台」を月の裏側に設置する方針を明らかにし、にわかに月が注目を浴びている。

 だが、問題は過酷な環境だ。月面では昼夜の気温差は300度にもなるという。また、月と同様に探査が進む火星には、大気はあっても96%が二酸化炭素で呼吸不可能だ。

 はたして人間は宇宙で暮らすことができるのだろうか?

 さまざまな分野の科学に精通する「理科子先生」が、素朴なギモンにやさしく答えてくれる電子書籍『おしえて! 理科子先生(1)』(読売新聞アーカイブ選書)をもとに、その答えを考えていこう。

※以下は同書の「(1)人は宇宙で暮らせるの?」より引用しました。

 ***

Q:宇宙飛行士の野口聡一さん(55)が国際宇宙ステーション(ISS)に滞在しています。月や火星に基地をつくる計画もあるそうだけど、理科子先生、人はいつか宇宙で暮らせるようになるのかな。(2021年4月1日掲載)

高い被爆リスク

 宇宙は過酷で簡単に暮らせる環境ではないわ。

 例えば、ほぼ無重力のISSでは体に様々な変化が起こるのよ。到着して数日間は血液が上半身に集まりがちになり、顔が満月のような「ムーンフェース」という状態になるわ。骨や筋肉が弱くなり、吐き気を引き起こす「宇宙酔い」もあるそうよ。

 宇宙では高エネルギーの放射線の宇宙線が飛び交っている。太陽や銀河から出ているけれど、大きな磁石でもある地球の周囲には「地磁気」と呼ばれる磁場や大気があって私たちを守ってくれているわ。地球上での被曝の程度は世界平均で年間0・32ミリ・シーベルトよ。

 ちなみに大気は、隕石からも私たちを守ってくれているのよ。東京大学の杉田精司教授は「直径1メートル程度の小天体は10日に1度は地球の大気圏に突入している」と話す。大半は燃え尽きてしまうけれどね。

 2021年4月には宇宙飛行士の星出彰彦さん(52)もISSに向かうけど、ISSでは半年間で約100ミリ・シーベルトも被曝する。日本原子力研究開発機構の佐藤達彦研究主席は「大気や地磁気に守られず、全方向から宇宙線にさらされる宇宙船では、被曝のリスクが最も高くなる」と話しているわ。

月の夜 マイナス200度

 別の惑星への移住もかなり険しい道のりね。

 まず地球から3日で到着できる月は、表面温度が昼は100度、夜はマイナス200度にもなる。大気はないから半年に1度は隕石で直径100メートルものクレーターができてとても危険。被曝量も1日で地球での4年分になる。重力も地球の6分の1程度しかないわ。米航空宇宙局(NASA)は宇宙飛行士を2024年までに月に送り、月周回基地の完成を目指すアルテミス計画を進めている。ただ、大統領がかわって延期されそうよ。

 もし月面に基地をつくるなら、隕石や宇宙線から身を守る必要があるわね。17年に日本の研究チームが巨大な地下空洞を発見していて、基地の有力な候補地だと考えられているのよ。

火星の大気 二酸化炭素96%

 次に移住の可能性があるのが火星ね。気温はマイナス153度にもなる極寒で、大気はあるけれど96%が二酸化炭素で呼吸ができないわ。過去には川や湖などがあったようだけど、わずかに残った地表の水は氷になってしまったみたい。重力は地球の3分の1程度よ。

 地球から2億2200万キロ・メートルも離れていて到着までに半年以上かかるけれど、NASAは2021年2月に無人探査車を送り込んで生命の痕跡を探している。米宇宙企業「スペースX」は人を送る計画も進めていて、最高経営責任者のイーロン・マスク氏は26年までには火星に人を送ると宣言してロケットの打ち上げ試験を繰り返しているわ。

Book Bang編集部
2024年5月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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