『五郎丸日記』小松成美著

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『五郎丸日記』小松成美著

[レビュアー] 廣瀬俊朗(ラグビー日本代表元主将)

■生き方に対する助言にも

 ゴローとは今季、トップリーグの試合だけでなく、TVや雑誌など毎日どこかで顔を合わせていたように感じる。ラグビーシーズン真っただ中だったにもかかわらず、身を粉にするようにして人生を生きるのは何故なのか。

 2019年に日本で開催されるワールドカップや未来のラグビー界のためだけではない。ラグビーに限らず、スポーツを観たり、実際にしたりすることによって、皆の人生が豊かになってほしいと彼が願っているからだ。

 日記を書き始めた理由にそのような背景があるから、記されている言葉は、生き方に対する助言となっている。

 例えば、対戦相手がわれわれの勝利を祝福してくれることは、お互いに尊敬することや謙虚であることの大切さを教えてくれる。あるいは、外の世界を見るためにいろいろな人と話をすること。その作業によって成長していくことが、とても有意義であることを気付かせてくれる。

 日記のもう一つの特徴は、自分の宝物にするために書いていることだ。自分自身のその時の気持ちを正直に残しておいて、当時を正確に振り返ることができる。本にしてくれたおかげで、その一部分を僕たちも共有できる。こんなに贅沢(ぜいたく)なことはないと思う。

 ワールドカップ中に、急に襲ってきた不安、国を背負う名誉、勝たないといけないという責任。弱気な一面ものぞくことができる。それでも、日本ラグビーを変えるために自分自身を奮い立たせ、仲間のサポートを得ながら乗り越え、素晴らしい結果を残した。活躍の裏にあった葛藤を知ることができて、とても心を揺さぶられた。

 読んでいると、彼の文章にどんどん引き込まれる。彼の実直さ、人のせいにせず起こること全てを受け入れて戦っている姿勢ゆえだろう。

 ゴローは今年、世界最高峰リーグのスーパーラグビーに挑戦する。そこで、彼が何を見て、どうやって壁を乗り越え、何を僕たちに見せてくれるかにとても興味がある。喜びを共有するためにも、いま『五郎丸日記』を読んでおくといい。(実業之日本社・1600円+税)

 評・廣瀬俊朗(ラグビー日本代表元主将)

産経新聞
2016年1月31日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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