『体罰と日本野球』
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<書評>『体罰と日本野球 歴史からの検証』中村哲也 著
[レビュアー] 斎藤貴男(ジャーナリスト)
◆罷り通る あしき伝統
あの長嶋茂雄は立教大時代、「月夜の千本ノック」で鍛えられた。同じバットで故・砂押邦信監督は選手たちを殴りまくってもいたのだが、そちらの顔は黙殺されやすい。氏の異名が“鬼”だったと聞いても、私たちは「ミスターの恩師」としての厳しさばかりを見ていた。
スポーツ界の体罰は古くて新しい大問題だ。どれほど追及され、文科省の通達が重ねられても、罷(まか)り通り続けている。
中学から大学まで野球部だったスポーツ史家が、今日に至る経過と構造を検証し、解消への道筋を提示した。大正後期に頻発し始めた体罰が、戦後になって激化していくさまは、ある種の合理性を伴ってもいたという。だからこそ恐ろしい。
先人を全否定するキャンセル・カルチャーに陥ってはならぬ。根性論のすべてが悪でもないはず、ではあるけれど。
そう考えがちな私たちの多くは元野球部ではない。“伝統”擁護を言葉にできる元選手たちもまた、一握りの成功者だ。犠牲にされた人々が忘れられることだけは、あってはならないのである。
(岩波書店・2750円)
1978年生まれ。高知大准教授。『学生野球憲章とはなにか』
◆もう一冊
『巨人の星』梶原一騎原作、川崎のぼる画(講談社)