『玉依姫』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
作家・阿部智里と女子高生・阿部智里。8年の時を経た最新作『玉依姫』【自著を語る】
[レビュアー] 阿部智里(小説家)
「『山内』かぁ。もしかしたら、『山内』の物語とは、長い付き合いになるかもしれない」
執筆中に閃くような予感を得たのは、今から、もう八年も前のことである。
比較的早い段階で文筆業を志すようになった私の人生は、常に「どうやったら面白い物語が書けるのだろう」という、非常に楽しい悩みと共にあった。
小学生の頃はハリー・ポッターに憧れて、西洋ファンタジーを書こうとした。だが、西洋をろくに知らないまま書けるはずもなく、途中で投げ出してしまった。
中学生の頃はその反省を活かし、東洋ファンタジーを書こうとした。だが、出来上がった世界観は既存作品のまねに他ならず、東洋も私にとっては広大過ぎることを思い知った。
高校生になり、日本人である自分は日本を舞台に書くのが良いだろう、という答えにようやく行き着いた。そして書かれた物語が、『玉依姫』である。
「もし、生贄にされた女の子が、自分を殺すかもしれない赤ん坊の神様を育てろと言われたらどうなるだろう?」
そういう思いつきに、日本神話をからめた和風ファンタジーだ。書いている最中、神様の住まう異界を表現する用語が必要になり、出来た言葉が『山内』であった。
山の中だから山内でいいや、という安直極まりない理由で出来た言葉だったのに、タイピングした途端、まるで宝石の鉱脈でも掘り当てたかのような気分になったのだ。
思えばその時こそが、デビュー作以来、現在まで続く八咫烏シリーズが物語としての輪郭を顕わにした瞬間だった。