電子書籍は紙の本を殺すのか? 「知の巨人」が〈読書の未来〉を考える。【自著を語る】

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読書脳 ぼくの深読み300冊の記録

『読書脳 ぼくの深読み300冊の記録』

著者
立花 隆 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784167906580
発売日
2016/07/08
価格
825円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

電子書籍は紙の本を殺すのか? 「知の巨人」が〈読書の未来〉を考える。【自著を語る】

[レビュアー] 立花隆

 ここで、前半の石田英敬・東京大学附属図書館副館長(当時。二〇一六年現在、東京大学大学院総合文化研究科教授)との対談「読書の未来」について、一言しておく。

 これまで、「週刊文春」の「読書日記」をまとめた本としては、前述の三冊がある。いずれも、連載をまとめた本体部分と、それにプラスアルファした部分の二部構成になっている。そこで今回も発刊準備にかかった頃から、そのプラスアルファ部分をどう構成するかという話を一年以上前から担当者としていた。その過程で、かなり前から石田副館長との対談という話が決まっていた。石田副館長は、その前職は東大大学院情報学環の学環長をしており、その時代に、私も情報学環の特任教授をしていた関係で、幾つかのプロジェクトでご一緒していた。たとえば、二〇一〇年七月二十四日には、角川グループホールディングス取締役会長の角川歴彦氏をお呼びして、『電子書籍の“衝撃”「コレがアレを殺す?」』を行うなどをしたこともある。

「コレがアレを殺す?」とは、ヴィクトル・ユゴーの『ノートルダム・ド・パリ』に出てくる登場人物、司教補佐クロード・フロロのセリフである。フロロはニュールンベルクで印刷された書物「聖パウロ書簡集注釈」をコレと指さし、窓の外に見える石造のノートルダム大聖堂を指さして「アレ」といい、いずれ印刷された書物が石造の大聖堂を滅ぼすことになると言って、グーテンベルク革命がもたらす未来社会の大変革を示唆したということになっている。実際、それから間もなくはじまったグーテンベルク革命によるルターの書物の爆発的な広がり(ほんの数年で三十万部。ドイツの出版物の半分以上がルターの書物となった)が、宗教改革をもたらし、カトリック教会のヨーロッパ精神世界支配を危(あやう)いものにしたのである。

 このシンポジウムの「コレがアレを殺す?」は、当時はじまったばかりの電子書籍の時代が、グーテンベルク革命と同様の一大社会変革をもたらすであろうか? という疑問を意味している。

 まず、幾つかの事実から述べておくと、このシンポジウムからすでに三年余を経過するにもかかわらず、電子書籍が紙の本を圧倒するような勢いで、伸びたかといえば、必ずしも伸びていない。

文藝春秋BOOKS
2016年7月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

文藝春秋

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