[本の森 医療・介護]『産まなくても、産めなくても』甘糟りり子/『院内刑事』濱嘉之

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産まなくても、産めなくても

『産まなくても、産めなくても』

著者
甘糟 りり子 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784062204750
発売日
2017/02/28
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

院内刑事

『院内刑事』

著者
濱 嘉之 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784062817004
発売日
2017/02/21
価格
680円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

[本の森 医療・介護]『産まなくても、産めなくても』甘糟りり子/『院内刑事』濱嘉之

[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

 少子高齢化問題が騒がれてから久しい。高齢化に関しては、元気な老人たちを見ていると悪い事ばかりではないけれど、ピンピンコロリとはなかなかいかないものだ。

 一方の少子問題は打つ手がないように思われる。女性の活躍をいくら政府が唱えても「保育園落ちた日本死ね」という状況は簡単には変わらず、子供を持つこと自体に逡巡するうちに高齢出産となったり、出口の見えない不妊治療に心が折れてしまったりする人がたくさんいるのも事実だ。

 甘糟りり子産まなくても、産めなくても』(講談社)は『産む、産まない、産めない』に続く出産と妊娠の短編小説集第二弾。現在直面している深刻な問題から、近未来にはあり得るかもしれない題材までバラエティに富んでいる。それが現代の日本が抱える問題を炙り出しているようだ。

 将来に備えるための卵子凍結、第一線で活躍する女性アスリートの選択、人工授精を行うグループ内での歓喜と挫折、おもいがけない不妊の理由、出産後の女性の働き方、特別養子縁組の可能性、子供はどこから生まれるか。

 女性が選択しなければならない問題は複雑化している。多忙な仕事に就いていれば、時間は飛ぶように過ぎていく。一息ついて将来を考える時間を作るために、この小説集が示す可能性は大きい。

 医療と警察は遠いようで近い。大きな事件を起こした犯人に精神鑑定を受けさせる場合は多く、原因不明の死体は監察医による解剖によって死因が特定される。直截的な事件でなくても、政治家など要人の急病では政府の判断で病名が秘匿され、公安関係の警察官が保護する場合もあるようだ。

 警視庁で公安部や内閣官房内閣情報調査室などに勤務経験のある小説家、濱嘉之は、自身の経験をもとにした臨場感あふれる警察小説で人気がある。『院内刑事』(講談社+α文庫)はまさに十八番ともいえる作品だ。

 警視庁公安総務部OBの廣瀬知剛は四十五歳。日々神経をすり減らす警察組織からドロップアウトし、過去の人脈を使ってベッド数五百五十床の大規模医療機関、医療法人社団敬徳会川崎殿町病院のリスクマネージメントを担当している。院内のセクハラからやくざなど迷惑行為をするモンスターペイシェント、暗殺未遂の疑惑によって入院している要人の対応、原因不明の感染症対策など、ある時は強面に、またあるときは親身に相談を行う院内交番として重要な役を引き受ける。

 病気はある種の職業にとっては、生命の危機だけでなく社会的にも命取りになる。専門的な医師や医療機関が不得意とする社会情勢や人間関係に精通する廣瀬のような人材は、今後ますます必要になってくるだろう。警察組織だけでなく、政治家の閨閥や医師たちの力関係などもリアルだ。ネタはたくさんありそうだ。シリーズ化を期待する。

新潮社 小説新潮
2017年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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