又吉直樹×壇蜜「尽くす女、嫉妬する男」〈『劇場』刊行記念対談〉

対談・鼎談

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劇場

『劇場』

著者
又吉, 直樹, 1980-
出版社
新潮社
ISBN
9784103509516
価格
1,430円(税込)

書籍情報:openBD

尽くす女、嫉妬する男

p068
左から壇蜜さん、又吉直樹さん

壇蜜 又吉さんの新作『劇場』は、小さな劇団の主宰者の永田が、服飾の学校に通っている沙希と出会って……という恋愛小説ですが、男女の会話やメールがヒリヒリして息が詰まるようでした。又吉さんご自身も、男女の間に限らずとも、ああいう拗らせたようなメールなどのやり取りはよくなさるんですか?

又吉 あそこまでのはないですかね……いや、あるか? あるかもしれないです(笑)。

壇蜜 それはどなたと?

又吉 小説みたいな恋愛とかではなくて、ずっと僕に絡み続けて来る人でも割と無視しないんですよ。

壇蜜 返事を返すんですね。相手にするというか。

又吉 対応しちゃうんです。早めに撤退した方が楽なんですけどね。壇蜜さんは人間関係であまり揉めなさそうですね。

壇蜜 揉めない方だと思います。

又吉 シンドイですもんね。

壇蜜 シンドイし、覚えていられないんですよ、いろんなことを。直接会って喋るのでも電話でも、長いこと文句か何かを言われているうちに、「あれ、この人、最初何て言ってたっけ」とか思い始めて、ポカーンとしているうちに、相手がさらに逆上していく、という悪循環です。

又吉 壇蜜さんから怒ったりはしない?

壇蜜 私は怒りが持続しないんですね。というか、体力がもたない(笑)。でも、ケンカするほど仲がいいって言いますけど、個人的には、ケンカする人とは大抵うまくいきません。

又吉 僕もそう思いますね。中学時代から今までずっと仲がいい友達がいますけど、一回もケンカしたことないです。

壇蜜 やっぱり。気が済むまでケンカして、それで仲直りしてうまくやっていける人たちもいますけど、誰もがケンカするほど仲がいいとは限らない。「そこ、個人差があるからね」って言うと、また怒られるんです(笑)。「今はケンカしてても、僕たちは分かり合えるはずだから」。だから、「だって今、ケンカしてるのは分かり合えてないからじゃないの」と。

又吉 それ、口に出して言っちゃうんですか?

壇蜜 はい。

又吉 向こうは粘ってきませんか(笑)。

壇蜜 粘ってきます。「それは君の本心じゃないだろう」とか言うので、「本心なんかないよ。私は玉ねぎと一緒だから」と(笑)。

又吉 剥(む)いても剥いてもずっと玉ねぎだぞって(笑)。それ、すごく分ります。

壇蜜 人間関係の上だけでなく、なぜテレビでも、すぐ本心とか本音とかを言わそうとするんでしょうね。よく言われませんか、「素の又吉さんを」なんて?

又吉 僕、よく言われる方かもしれません。「まだ知られていない又吉さんを」とか……。

壇蜜 そのうち副都心線あたりの中吊り広告で見そうですね。「まだ知られてなかった素顔の又吉直樹さん!」とか(笑)。

又吉 そういう質問されると、僕はいつも、「何で今まで隠してきたことを、ここであなたに言う可能性があると思えるの?」って思う(笑)。

壇蜜 三十ウン年、隠し通してきたことを(笑)。

又吉 隠すのには理由があるわけでしょう? 「これを言ったら生きづらくなる」とか「誰かを傷つける可能性があるな」とか思って、言わないわけですよね。「それを何で、今あなたの前で出すねん」と思う時はあります。でも、向こうの気持ちも分るというか、お互いさまというか、僕らも出始めの頃は「実はこんなんですよ」というトピックを必死で出していたんですよね。コンビでやっているから、相方の綾部は熟女好きとか、僕は本が好きだとか。

壇蜜 何かマスコミで取り上げられやすいポイントですよね。

又吉 はい。それを取材で聞かれたり、アンケートで答えたりして、一周回ったら、「本以外で何か」ってなるんですよ。ほな、「喫茶店、好き」とか「散歩、好き」とか答えて。三周目にもなると、「本とサッカーとファッションとコーヒーと散歩は分ったので、他に趣味、何がありますか?」。そんなにないでしょう(笑)。

壇蜜 たくさん過ぎると、もう趣味じゃない(笑)。

又吉 僕、趣味はわりと多い方やと思うんですよ。でも、「何か新しいことを」とか「このひと月で何かハマってることは」とか、そんな聞かれ方をします。僕はそれにできるだけ答えるようにはしているんですが、無理やり、興味ないものをあるって言ったり、何かに詳しいふりしたりするのは辛いですよね。壇蜜さんは、新しいものを吸収していこうというタイプではないんですか?

壇蜜 ええ。さっきのお話じゃないですが、デビュー当時に「いかに取り上げられるか」と世間に出したものに、今は苦しめられているような状態です。

又吉 そういうことってありますねえ。

壇蜜 調理師免許を持っていることを割と言ってきたので、「料理はお得意なんですよね」って。「いやいや、クックパッドがなければ何もできないんです」(笑)。私はタレントになって七年目ですが、今は広げて見せていたものをちょっとずつ回収する作業をしています。かつては、やたら「かつら剥き」をするキャラクターだった時期もありました(笑)。

又吉 やってましたね。僕も……あれ、壁に打つテニスみたいの、何でした?

壇蜜 スカッシュ?

又吉 「最近はスカッシュをやりたいと思ってて」って言ったことがあります。スカッシュって単語ももう出ないのに(笑)。あの時は、自分でも「そんなはずないやろ。大丈夫ですか、これ」と思いながらやっていましたね(笑)。

壇蜜 無理やりに外へ出してしまったものって、自分と食べ合わせが悪いパターンが多いですよね。

又吉 実際、スカッシュをやってみたら面白かったし、真剣にやっている人も一杯おるから「オリンピック競技になったらいいのに」と思いますけど、やっぱり継続してはできなかったです。人によっては、「これ、むちゃくちゃ好きなんですよー」とか言って、やってみたら全然できへんで恥かくけど、そこで笑われる潔さを出せる人もいます。でも壇蜜さんとか僕みたいなタイプがそれをやると、見ている人がいたたまれなくなりそうな……(笑)。

壇蜜 きちんと闇に葬り去れるのか、視聴者から心配されるタイプ(笑)。タイプで言えば、タレントやっている以上、自己顕示欲がまるでないわけはないけど、「見て~、私の暮らし」「いいでしょ~、みんなもやろうよ」みたいなテンションにはなれない方です。

新潮社 波
2017年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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