『幻想リアルな少女が舞う』
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幻想リアルな創作の日々――『幻想リアルな少女が舞う』著者新刊エッセイ 松本英哉
[レビュアー] 松本英哉(作家)
とても贅沢に時間を使ったな、というのが今の率直な思いです。
デビュー作『僕のアバターが斬殺(や)ったのか』が出版されたのが一昨年の五月。二作めとなるこの本の刊行まで一年八か月の時間を要しました。
試行錯誤を繰り返し、ベースとなるトリックが決まったのが一昨年の十二月初旬。そこからストーリーを固め、執筆に取りかかり、七月にはすっかり書き上げたのですが、当初の予定よりかなり長い話になってしまい、その出来は「気軽に楽しめる娯楽小説」などと胸を張れるものではありませんでした。そこで夏から秋にかけ、何層にも重なった殻を取り除くように、物語の芯となる部分を露出させていき、スピーディな展開が持ち味となる今の形に仕上げました。
ずいぶんと回り道をしましたが、それでも今は存分に時間をかけて良かったと感じています。多種多様なモノが溢れる時代にあって、ひとつの創作に多くの時間を費やせたことは、貴重な経験になったと思うからです。
実は今回の本は、ぼくが六年前に書き上げ、さるミステリー新人文学賞に応募した小説が土台となっています。その作品は最終選考で惜しくも落選したのですが、この本はそのときの構想をもとに、登場人物と物語を一新し、まったく新しい別の小説として完成させたものです。作中では架空の情報技術が登場しますが、それらが放つ近未来的な雰囲気は、六年の時を経た今のほうが時代の空気とよく馴染んでいるように思われます。この六年の間に、世の中の情報技術が大きく進歩したという証(あかし)かもしれません。もしそうなら、このタイミングで作品を上梓(じょうし)できたことは幸運でした。
作家にとって、ひとつの作品と向き合える時間の長さは、そのまま“贅沢さ”の目安になり得ると思います。その意味では、この本はこのうえなく贅沢な作品となりました。