『ブサメンガチファイター』刊行記念インタビュー 弘松涼

インタビュー

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ブサメンガチファイター = BUSAMEN GACHI FIGHTER

『ブサメンガチファイター = BUSAMEN GACHI FIGHTER』

著者
弘松, 涼
出版社
光文社
ISBN
9784334912192
価格
1,320円(税込)

書籍情報:openBD

ブサメンガチファイター(1)

『ブサメンガチファイター(1)』

著者
弘松涼 [著]/上月ヲサム [漫画]
出版社
スクウェア・エニックス
ISBN
9784757557031
発売日
2018/04/25
価格
628円(税込)

書籍情報:openBD

『ブサメンガチファイター』刊行記念インタビュー 弘松涼

[文] 光文社


弘松涼(ひろまつ・りょう) 広島県在住。2017年、「スタイリッシュ武器屋」シリーズでデビュー。
※執筆風景。3つの画面を駆使しながら、タイピングをする。

誰でも小説を投稿でき、読めるサイト「小説家になろう」からデビューし、今回『ブサメンガチファイター』を刊行した弘松涼氏。現実世界で失敗した引きこもりのブ男が、異世界に転生するも、さらにブサイクになって人生をやり直すという特殊な設定が本作最大の魅力。「小説家になろう」系作家としての素顔と作品について熱く語ってもらいました。

世知辛(せちがら)い世の中で、元気になる世界が身近にある。

――小説を書くようになった経緯と、どうして「小説家になろう」へ投稿を始めたのか教えてください。

弘松 初めて「小説家になろう」に投稿をしたのは、二〇一四年の夏ぐらいだったと思います。それまでは普通に、電撃小説大賞などいろいろな新人賞に応募していました。何回か最終までいったのですが、なかなか結果を出せず……。それでたくさんの方に読んで意見をもらいたかった時にサイトの存在を知り、投稿してみたら、病みつきになりました。新人賞に応募を始めて一年経つか経たないかぐらいのときに、「ブサメンガチファイター」を書いたら、一気に、一日のランキングで二位とかになった感じで。それからいろいろな作品を書いたあとに、別の作品で、デビューすることになり、それ以降は投稿だけになりました。

――新人賞にはどのような作品を応募していたのでしょうか。

弘松 内容的には、ライトノベルみたいなものですが、実際は程遠いような……。無人島に漂流して生き延びる、サバイバルものを。しかも、出てくるヒロインは、その島で生きてきたから、言葉も通じない感じで、主人公も、途中で設定がコロコロ変わってしまい(笑)。

――どうして、小説家になろうとしたのですか。

弘松 書いていて思ったんです、むちゃくちゃ楽しいなと。学生の頃は漫画家になりたいと思ったことがありましたが、社会人になってさすがにその時間が取れないので、何かクリエイティブなものを作りたいと思ったときに、一番手っ取り早く、極端な話、パソコンとキーボードだけあればできちゃうジャンルなので、なれたらいいなと思いながら……。会社経営をしているのですが、結構仕事の量に波があって、スーパーハードなときに一回倒れたんですね。ほとんど寝ずに働いて、倒れてしまって、そのときにライトノベル的なものを読んだんですね。「ああ、こういう世界もあるんだな」と、書いてみたら楽しくて。

――物語をつくる楽しさ、新しいものをつくる楽しさですね。

弘松 そもそも会社の経営も、新しいものをつくりたかったからワクワクしていたのですが、つくって回すには、わりとパワーを使うんですよ(笑)。

――今回、『ブサメンガチファイター』は小説版と漫画版の企画が別々の出版社で同時に進みましたが、いかがでしたか?

弘松 純粋に嬉しかったですね。自分自身も漫画家に憧れていたので、漫画にもなる、小説としても売っていただけるということで、非常に光栄なことだと思っています。

――小説版と漫画版ではイラストを描くのが別の方ですので、タッチや雰囲気が違うと思いますが、いかがでしたか。

弘松 また全然違う世界が楽しめて、私自身も楽しかったです。

――主人公のデザインも、重厚な雰囲気の小説版と、ややコミカルな漫画版で違いますよね。

弘松 そうですね。この主人公は、描く方はすごく苦労されるんじゃないかと思います。文章に書くのは簡単なんです。「想像を絶するほどのブサイクで」とか(笑)。

――人によっては、「これ、べつにブサイクではない」と。

弘松 カッコいいですよね。

――「かわいい」と言う人も多いですよね。

弘松 そうですね。でも、あれを本当にブサイクにしたら、見るに堪えない(笑)。

――主人公の見た目がブサイクという特異な設定の着想はどこからきたんですか。

弘松 急に思いついたんですよ。それこそ、書きながら思いつきました。もう、その主人公になりきって、こんな感じにしたら、こうやるだろうなと。さあ、異世界に行って何をしようかと思いながら、書いていきました。

――主人公は極度の女性恐怖症ですが、異世界では、意外と気は優しくて力持ち的な、感じの良い性格ですよね。

弘松 そうですね。ブサイクで性格が悪かったら、何も良いところがないので(笑)。まあ、見た目があれでも、中身がしっかりしているというのは、すごく魅力的な人だと思うんですよね。

――弘松さんにとって、異世界転生ジャンルというのはどのようなものでしょうか。

弘松 知らない夢の世界に、いまの自分の知識を持って飛び込んでみたいという願望は、みんなあると思います。そういうのを、なるべく身近に感じていただけるのが異世界転生ものかなと。特に、いまは世知辛い世の中で、現実でいろいろな思いをしたときに、元気になる世界が身近にあるんだよというような、本当に夢みたいなところですかね。

――それこそ、『ブサメンガチファイター』の設定は、意外とハードですよね。物語が痴漢冤罪で始まったりと……。

弘松 ええ。もうちょっと夢のあるほうが人気もでるのかもしれませんが、失敗というのは成功のきっかけだと思うんですよね。少し発想や考え方を変えることで、見えている世界は全然変わると思います。たぶん、この世界自体も、考え方を変えるだけで異世界のように感じられるマインドになれると思うんですね。ひとつの考え方に囚われてしまって、現実世界で心身を病んでしまっている方も多いと思います。最近の自己啓発本などで、考え方をこうしたら楽ですよとか、よく売れていたアドラーの『嫌われる勇気』とか、ああいうものを取り込んで、こういう見方をしたらすごく楽になるとか、元気になるというのを、本当は書けるぐらいのレベルになりたいです(笑)。

――作品を執筆していく場所として、「小説家になろう」というサイトはどのようなところですか。

弘松 本当に素晴らしいサイトだと思います。私みたいな、こういう形で、趣味の延長ではないけれども、好きで書いていて、まさか声を掛けてもらえるとは、みたいな。たぶん、これからこういう方がどんどん増えてくると思います。そういう方が自由に創作できる、すごいサイトだと思っています。仕組みやルール、検索など、読者に合わせて変えていっているようなので、新しい切り口なのではないかと。そこで人気を獲得するのは難しいですね(笑)。一回、その日の一位とか二位とか取ると、色々なランキングが上がって、感想がたくさん来て、アドレナリンが出るんですよ。一気にブックマーク数が、五千とか三千とか上がる。あれをまた味わいたいと思っても、同一作品で同じようなことを二回起こすのは難しいので、新しいものを書かないといけないと思ってしまうのですが、いま書いているものも疎(おろそ)かにしちゃいけない。そこの葛藤がなかなか難しいですね……。

――いわゆる一般文芸と、「小説家になろう」系の違いについて、どのように感じていらっしゃいますか。

弘松 個人的な解釈ですが、一般文芸のほうが作家としての……まあ、比べるものじゃないと思いますが、難しさというか、ハードルが高いから、一般文芸のほうがカッコいいのかなと、ふと思うこともありますが、そもそも一流のシェフとB級グルメのシェフは、戦っているフィールドが違うわけで、べつに比べるものじゃないかなと。

――普段は、どのような作品を読まれますか。

弘松 心理学や自己啓発本などをよく読みますが、他にもいろいろ読んでいます。週二~三日、本屋さんに行って、読みたい本があればパッと買ってみます。このまえは、『おらおらでひとりいぐも』を読みました。最初はちょっと読みにくかったけど、面白かったです。

――好きな小説や作家の方はいらっしゃいますか。

弘松 父の影響もあり、パール・バックや吉川英治が好きですね。幼いころは文学全集を読んでいました。現代作家ですと、宮部みゆきさんや湊かなえさんの作品をよく読みます。

――漫画はお読みになりますか。

弘松 いまは、なかなか読めていませんが、一番最近は『進撃の巨人』ですかね。あれはミステリー要素も入れているから、上手いなと思って。伏線の張り方が。あとは、『闇金ウシジマくん』を読んでいます。ドロドロして面白いですね。

――執筆はどんなときにされているのですか。

弘松 今も並行して会社を経営しているので、昼の休憩だったり、早朝だったり、夜だったり、自分がノッているときです。「書きたい!」というエネルギーが燃えたときに。朝にランニングをしているのですが、そのときに良いアイデアが降ってくるとノッてきて、無性に書きたくなります。

――読者層のイメージは、いかがですか。

弘松 わりといろいろな年齢層の方が読んでいるんじゃないかと思いながら、感想を見ると、学生さんなのか、逆に、結構年上の方かなという感じです。話のネタ的にも、わかりやすくしたいので、幅広くみんなが知っているゲームである「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」とか、読者層よりも、そういうゲームが好きな方に向けて書いている感じです。あとは、読んでいただいて元気が出るようにしたいと思っています。読者の裏をかきたいから、どんでん返しを入れたりして、良い意味の裏切り方をしたいなと。

――最後に今後の活動について教えてください。

弘松 実はミステリーを書きたいとも思っているのですが、もちろん、「なろう」系の方も書き続けます。新しいものに挑戦していきたいのですが、いま執筆が遅くなっているので、今書いているものをどうにか完結させていきたいと思います(笑)。

光文社 小説宝石
2018年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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