『鳥人王』刊行記念特別対談 額賀澪(作家)×諸田実咲(棒高跳選手) 棒高跳。その知られざる世界

対談・鼎談

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鳥人王

『鳥人王』

著者
額賀澪 [著]
出版社
光文社
ISBN
9784334102296
発売日
2024/02/21
価格
1,760円(税込)

『鳥人王』刊行記念特別対談 額賀澪(作家)×諸田実咲(棒高跳選手) 棒高跳。その知られざる世界

[文] 光文社


棒高跳び

棒高跳をやっている人も知らないことが書かれている

額賀澪(以下、額賀) 諸田さんにお会いしたのはオンライン取材の時が最初なので。まだコロナが真っ只中の頃でした。

諸田実咲(以下、諸田) 二〇二〇年でしたね。

額賀 ちょうどその時に光文社に入社した新入社員が大学時代に陸上部で、諸田さんと友人だったということで繋がれたという。多分諸田さんは、何か得体の知れない取材が友達経由で来ちゃったなみたいな感じだったと思うんですけど。大学の同期だから断りづらいなみたいな……。

諸田 なんだろうみたいな感じはありました。でも断りづらいとかそういうのはなかったです。

額賀 それから筑波大学にみんなでお弁当を持って取材に行って。(※当時、筑波大学で棒高跳のポールの研究・開発に携わっていた武田理(たけだおさむ)氏の許(もと)へ額賀、諸田、編集者で訪問。現在は合同会社ポジティブアンドアクティブ Sports R&Dで棒高跳などのスポーツ用具の研究・開発・販売等を行なっている)

諸田 本当にあの筑波の取材は勉強になりました。棒高跳をやってるけどポールのこととか全く知識なかったんで。

額賀 私も筑波に行って武田先生のお話を聞けたのは勉強になったし、あの場に諸田さんがいてくださったのが良かったなって思ってて。

諸田 本当ですか。

額賀 棒高跳をやってる方がひとりいるだけで全然違いました。経験者がいると、こういうことは諸田さんでもやっぱり知らないんだなみたいに、聞いているとこちらも二重で勉強になるというか。選手からしたら常識なんだろうと思っていたことが、意外と「そっか、知らないでやってる人も多いんだな」ということもあって。それと諸田さんが跳ぶところも見られましたし。

諸田 棒高跳を実際跳んでいるところを見るのは初めてでしたか?

額賀 あの距離で見るのは初めてですよね。ちょっと練習とか、お試しで跳んでる感じって、なかなか見られないんです。

諸田 大会の感じとはもう全然違いました。助走の距離とか。

額賀 その時にめちゃくちゃ印象に残っていることがあります! 諸田さんが跳ぼうとしたら雨がやんで、跳び終わったら雨がまた降り出したんです。

諸田 そうでしたっけ?

額賀 すごい覚えてるんですよね。なので『鳥人王』でも雨のシーンをどこかで一回書きたいなって思っていて、実際に書いたんです。

諸田 読みました!

額賀 雨が降っている大会は書きたいなっていうのと、諸田さんにそれこそ取材で「やっぱ雨の日の試合最悪ですよね」っていう話を聞いていたので。

諸田 はい、最悪です。(一同笑) 読んでいて雨の日の嫌な感じがすごい伝わってきました。

額賀 他の競技の取材をする時もそうなんですけど、例えば諸田さんがおっしゃっていた雨の日が嫌、全部濡れてるし滑るし、ポールの手元をタオルで覆って、跳ぶ直前に取って跳ぶ―みたいなお話とかも、取材で聞いてなるほどなって思って、実際に小説の中でシーンとして書きました。確かに最悪だわって、改めて気付く瞬間が多かったですね。

諸田 雨の日の試合が自分の中でも、すごい浮かびました。最近、雨の試合を経験してなかったので。

額賀 記録を出さなきゃいけない大会で、雨はちょっとかわいそすぎるなって思いながら、雨を降らせてました。

諸田 でも、実際にあったんですよ。ロンドン(五輪)を決める年の、日本選手権の男子決勝の日が雨だったんです。その状況が重なって。私はその選手権は出ていなかったんですけど、映像で見た記憶がよみがえりました。物語と一致していて。しかも男子だし。

額賀 ロンドンの直前の日本選手権は、私、リザルトで記録を参考にしてます。雨の日の記録っていうのはどんなものなのかなと思って。

諸田 確かジャンプオフ(※第一位決定戦)してたんですよね。山本聖途(やまもとせいと)選手と澤野大地(さわのだいち)選手がジャンプオフで雨の中、二人で試合してました。すごく状況が似てるなと。読んでいて面白かったです。

額賀 良かったです。やっている人に「面白い」って言っていただけるのが、スポーツ小説を書いている作家は多分一番嬉しいので。

諸田 マニアックなところまで書いてくれて。さっきも言ったように、私の知らないようなポールの作り方まで細かく書かれていたので、棒高跳経験者も知らない人がおそらく多いと思うので、読んだら面白いのかなと思います。

額賀 棒高跳経験者を集めて「ここはちょっと違うと思う」みたいな話とかも伺ってみたいというか。ポールの作り方とか、そのへんは私も書いていて勉強になったし、話の始めにある国内にポールを作っているメーカーが実はないっていうのが面白い。面白いというか、棒高跳業界的にはむしろ変えていかなきゃいけないポイントなのかもしれないですけど。

諸田 確かにそうですね。

額賀 物書きとしては気になるポイントで、選手の皆さんが高いお金を払って輸入して使っているというのも、ほとんどの人は知らないんだろうなと改めて思ったので。そのへんをお話の中の一つの要素として、読んでいる人には「そうだったんだ」って思ってもらえたらいいなと。

諸田 棒高跳のことを一から勉強できるぐらい、情報が盛りだくさんで、こんなことまでっていう感じで。

額賀 諸田さんにそう言っていただけて良かったです。小説にする時に、ちょっと私もわざと嘘をつく時があるので、その競技の経験者の方や取材した方が読んだ時には、「ちゃんと説明したのにめっちゃ嘘ついてるじゃん」みたいな時って多分あるんですけど、そのあたりもひっくるめてトータルで面白かったなって言ってもらえるようにっていうのが、いつもスポーツを書く時の按配(あんばい)だなと思っていて。

諸田 ここ違うんじゃない、と気になるところはなかったと思うんですけど。それにアスリート芸人の陸(りく)の描写がすごく良かったです。本当にそういう人がいたら面白いなと思いました。

光文社 小説宝石
2024年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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