【聞きたい。】写真家・初沢亜利さん 『隣人、それから。38度線の北』

インタビュー

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隣人、それから。

『隣人、それから。』

著者
初沢亜利 [著]
出版社
徳間書店
ジャンル
芸術・生活/写真・工芸
ISBN
9784198646257
発売日
2018/05/16
価格
3,240円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

【聞きたい。】写真家・初沢亜利さん 『隣人、それから。38度線の北』

[文] 篠原知存(産経新聞 文化部編集委員)


初沢亜利さん

■変わりゆく人々の暮らし

 北朝鮮を訪ねて一般市民の生活をスナップした写真集『隣人。』を刊行したのが2012年。「違和感よりも共感を」という企画として世に問い、再訪も考えていなかった。ところが金正恩(キム・ジョンウン)体制下で社会が変化していると聞いて、気になり始めたという。

 「私たちの視点や思いなどとは関係なく、どうやら北は北として独自に発展している。今回は、変わりゆく人々の暮らしを、素直に興味深く撮りました」

 収録作は16年から今年の撮影。平壌の道路には車が急増していた。交通量はざっと3倍。スマホで撮影する人々。若い男女が人前でいちゃつく。観光客、建設ラッシュ、電動自転車…。手練れのスナップショットが空気をすくい取る。

 「都心と地方で状況は違うけれど、行けるエリアが広がっていて、次第に見せられる状況になっているのかな、と思いました」

 指導者の言動だけが一国の姿ではない。土地や人の性質は日常の生活ににじみ出す。服装、乗り物、町並み、食べ物…そしてなによりも表情に。表紙の写真にあるような、街頭で手をつないだりする若者の“ゆるさ”は世界共通だろう。

 「撮影を制止されたことはない」そうだが、巻末の「滞在記」を読めば、常に案内人がついて歩くなど独特の緊張感もわかる。よど号メンバーやサッカーの外国人監督を撮影した経緯も面白い。高級車を見て「一生手が届かない」と漏らす公務員や、カップルを「ふしだらだ」と批判する年配女性の話なども印象的。

 取材時には「想像もしていなかった」という転換期の到来。南北、米朝に続く日朝会談がどうなるか気になるところだが、情報の少ない国からのリアルで貴重な報告である。

 「これまでは北朝鮮が崩壊することを前提にした議論も多かったが、崩壊しないとなると、これからもつきあわないといけない。そういう現実を考えた方がいいように思います」(徳間書店・3000円+税)

 篠原知存

   ◇

【プロフィル】初沢亜利

 はつざわ・あり 写真家。上智大卒。他の写真集に『Baghdad 2003』『沖縄のことを教えてください』など。

産経新聞
2018年7月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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