赤神諒のライフワーク〈大友サーガ〉執筆の原点を探る! 赤神諒×細谷正充特別対談

対談・鼎談

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戦神

『戦神』

著者
赤神諒 [著]
出版社
角川春樹事務所
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784758413350
発売日
2019/04/11
価格
1,980円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

特集 赤神諒の世界

[文] 角川春樹事務所


赤神諒

デビュー作『大友二階崩れ』以降、小社刊の『大友の聖将』、『大友落月記』(日本経済新聞出版社)と、大友氏を書き続けている赤神諒氏。いつしか《大友サーガ》とまで言われるようになった、これらのライフワークとも言える執筆の原点はどこにあるのか。文芸評論家の細谷正充氏との対談で、その創作の秘密に迫る。

 ***

歴史小説と大友氏を書くようになった契機とは?

細谷正充(以下、細谷) 小説は昔から好きだったのでしょうか。

赤神諒(以下、赤神) はい、好きでした。私の祖父が英文学者で、三歳の頃からシェイクスピアの『マクベス』を見せられたりですね……。

細谷 「見せられたり」というのはどういうことですか。

赤神 劇場に連れていかれました。今でも鮮明に情景を覚えています。

細谷 英才教育ですね(笑)。

赤神 もう摺り込みですね。その後も「これを読め」とお子様向けの世界文学全集を渡されたりしました。BBCが製作して、NHKが放送していた「シェークスピア劇場」も録画を含めて全部見ましたね。祖父が同志社大学で教えていて、「お前が後を継げ」という話で同志社中学に入って、中二の頃にはシェイクスピアは全部読んでいました。自室から徒歩五秒ぐらいのところに祖父の書斎があって、世界文学全集が読み放題。司法試験に集中する大学二年生になる前くらいまで、片っ端から読んでいました。

細谷 歴史小説を読むようになったのは。

赤神 小学生の頃に『三国志』好きの友人に勧められて、最初は岩波少年文庫から入って、羅貫中の『三国志演義』を読みました。十回以上は読んでますね。歴史好きになると当然、司馬遼太郎も読みたくなる。他にも、吉川英治や新田次郎も読むようになりました。シェイクスピアの史劇も好きでしたね。

細谷 小説を書こうと思ったのはいつ頃からですか。

赤神 今、思い返すと、小学四、五年の頃に、いわゆる「セカイ系」を書いていたんですよ(笑)。私は美術も音楽も好きなんですが、才能がない。高三くらいの頃に、芸術は一握りの才能の持ち主しか作れない、きっと文学もそうだろう。自分には多少気の利いた文章は書けても、物語を作るのは無理だろうと勝手に思い込んで、その後はずっと好きで法律をやっていました。でも、仕事でいくらいい文章を書いても、読んでくれる人は少ない。ある時、ベストセラー小説を読んで、失礼ですが「これやったら、俺でも書けるわ」と思って書き始めました。それが三十七の頃で、以来、渾身の自信作を応募しては毎回落とされるという日々でした。

細谷 応募作は最初から歴史小説だったのですか。

赤神 いえ、気分転換もあって、歴史物と現代物を交互に書いていました。でも現代物はよくて二次で、歴史物のほうが戦績がよかったんですね。「じゃあ歴史物でデビュー狙ったほうが早いな」と思って、デビューの二年ほど前に歴史物に絞り込みました。

細谷 それで『大友二階崩れ』(受賞時タイトル「義と愛と」)で受賞してデビューするわけですが、なぜ大友家を題材にしたのでしょう。

赤神 人生で書ける小説の数って限られていますよね。だとすると「書きたい」と思える人物なり事件を書きたい。そうでないと、よいものが書けないし、情熱が続かない。そういった題材を北から探して、九州まで下っていきました。大友家は宗麟を除けばそれほど書かれていないので、書きたい題材がゴロゴロあったんですよ。しかも、あまり史実が分かっていなくて、想像力豊かに嘘八百が書けるんですね(笑)。

細谷 今では一連の作品が「大友サーガ」と呼ばれていますが、『大友二階崩れ』『大友の聖将』『大友落月記』と、どの作品にも今回の『戦神』の主人公である戸次鑑連が出てきます。四冊目で彼を主人公にしたのは、ちょっと早いなと思ったんですよね。鑑連は大友家の中で一番強い武将で、鬼札みたいな存在ですから。ところが赤神さんのブログを見たら、これが「大友サーガ」の七作目だということが発覚しまして(笑)。これは既に書いたものが存在するということですね。

赤神 はい。七作のうち、一作を除いて全部戸次鑑連を重要な脇役としていますので、私の中では、既にキャラは完全に出来あがっています。角川春樹社長から直々のご命令も戴いたので、とにかく書かなきゃいけない(笑)。時系列的に早い時期だったら大丈夫だろうと。

細谷 あ、なるほど!


細谷正充

赤神流、大友氏の描き方と戸次鑑連への思い

赤神 鑑連が最も活躍するのは大友滅亡期で、各地で叛乱が相次いで、外敵が侵入するわけですが、鑑連は大友を守るためにひたすら戦い続けるんですね。その前の、まだあまり知られていない時期だったら、それほど後に影響しない形で書けるんじゃないか。本作は「大友二階崩れ」という政変を「裏」というより、いわば「横」から見た作品でもあるのですが、この時期までならいいのかなと。構想自体はデビュー前に完璧に出来あがっていました。戸次鑑連は大友家臣団でも一番好きな人物なので、主人公にして書くにはまだ早いかなとは思ったんですけれども、彼の若い頃ならばいいだろうと。

細谷 父親の代から始まるじゃないですか。ちょっとびっくりしました。歴史小説はどこから始めて、どこで終わらせるのかが、非常に難しいと思います。

赤神 いつも悩んでいます。鑑連が平凡な出生だとつまらないですよね? 彼の出生譚はよく分からないので、結構手の込んだ作り方をしているうちに、地の文の説明では伝わらないだろうと考えて、その前に父親の代の一章をもうけたんですね。

細谷 これは「英雄譚」だなと思いました。英雄譚というのは、生まれた時に何か特殊なエピソードがある。また悲劇でもありますよね。シェイクスピアを読んでいたという話を聞いて、非常に納得できました。

赤神 彼は結局、陣没するわけで、本当に、生まれてから死ぬまで戦に明け暮れた人です。そういう業を背負った人間として、血まみれで生まれさせたいと思ったので、頭を捻って嘘ばかり書きました(笑)。トラジェディ(悲劇)が元々好きなものですから。いかに悲しい物語を書くか。テーマが明確に出ていれば素晴らしいと思いますが、仮にそうでなくても、面白くて泣ける小説が書けて、読者の皆さんに読んでいただけるなら、僕は満足です。

細谷 いままでの作品の鑑連は「外側」から見たものだったので、今回の『戦神』でようやく内側が見えました。戦の場面もいっぱいありますけど、むしろ家庭的なところに力を入れていますよね。

赤神 そうなんです。和気あいあいとした家族や家臣団を彼は大事にする。でも、自分の血を分けた人は歴史的には誾千代という娘しかいないんですね。そこに着目して悲劇性を創り出せないかと考えました。幾つか残っている史実のエピソードでは、鑑連は家臣を大切にしています。この部分をきちんと出していったほうが悲劇性が高まるし、鑑連の最後の行動も納得できるだろうと、工夫して書いたつもりです。

細谷 『大友落月記』の頃からだと思うのですが、割とユーモラスな感じを入れようとしているのではないでしょうか。今回も後半の「戸次の母御前」のところは、明らかにユーモラスなことをやろうとしていますよね。

赤神 はい。やっぱり「笑いあり涙あり」が理想ですね。常日頃、笑いがあるから涙があると思っています。関西人なので、実は作品でも毎回笑いを取りに行っているつもりなのですが、今回はなかなか上手くいったかなと思っています。

細谷 女性の描き方にも、力を入れていますね。赤神さんは強い女性が好きなのかなと思うんですが。

赤神 戦国なので、守ってあげたくなる女性でもいいんですけど、今回は違いますね。鑑連の妻になるお道は、あの鑑連が惚れるような女性なので、強くて凜とした女性だろうと。史実では鑑連の義理の母親もしっかりした女性だったようですね。乱世を生き抜こうとする女性の姿を書いたつもりです。

細谷 「大友サーガ」で扱う時代は、全部で五十年くらいですか。

赤神 回想シーンを除けば一五五〇年の「大友二階崩れ」から本格的にスタートすることになりますが、最終的には立花宗茂の物語になるんですよ。一六〇〇年の関ケ原でいったん滅ぶんですが、そこからさらに宗茂を書くとすると、彼の復活まで、もうちょっと行く感じになりますね。

細谷 『戦神』で鑑連の前半生を描いたので、当然、後半生を書く予定があると思いますが。

赤神 はい、秋に出す予定の作品は、この後を書くことになるので、当然鑑連も出てきます。鑑連の視点で書くかはともかく、今後も「大友サーガ」を積み重ねて参ります。

細谷 最後に読者に向けて一言いただければ。

赤神 今後も悲劇にこだわって泣ける作品を書いて参ります。応援よろしくお願い申し上げます!

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赤神諒
1972年京都市生まれ。同志社大学文学部卒、東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了、上智大学大学院法学研究科博士後期課程単位所得退学。私立大学教員、法学博士、弁護士。2017年、「義と愛と」(『大友二階崩れ』に改題)で第9回日経小説大賞を受賞し作家デビュー。他の著書に『大友の聖将』『大友落月記』『神遊の城』など。

細谷正充
1963年埼玉県生まれ。文芸評論家。編著書に『必殺技の戦後史』『名刀伝』など。最新の編著『作家たちのオリンピック 五輪小説傑作選』がPHP研究所より発売中。

角川春樹事務所 ランティエ
2019年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

角川春樹事務所

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