令和改元に合わせリニューアル「文藝」夏号の目玉は古谷田奈月の力作

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大きくリニューアル 『文藝』夏号の目玉は 古谷田奈月の“力作”

[レビュアー] 栗原裕一郎(文芸評論家)


文藝 2019年夏季号

 元号が令和に変わって初の発行となる文芸誌群が今回の対象で、いくつかの雑誌が平成にちなんだ特集を組んでいる。日本ローカルの元号が変わったからってそれがなんだ、みたいな声が多い。そりゃそうだが、こう足並みが揃うと気持ちが悪く、「改元がもたらす変化ってのもあるだろうに」という気分になる。

 改元にあわせたのか、『文藝』がこの夏号で大きくリニューアルした。「文芸再起動」とうたわれている。

 小説としては、表紙にタイトルが大書された古谷田奈月「神前酔狂宴」が目玉で、負わされた期待に違わぬ手の込んだ力作だった。

 要約の難しい小説である。明治神宮近くに建つ、軍神・高堂伊太郎を祀った高堂神社、そこに併設された高堂会館が舞台。結婚披露宴会場として人気の高堂会館で、非正規の派遣として働く浜野が主人公だ。

 時給に釣られて高堂会館で働き始めた浜野の、18歳だった2003年から、34歳となる2019年まで16年間にわたる、ある種の、そう、ある種の成長物語である。浜野はブライダルスタッフとして成長、出世するのだが、浜野の意識の裏側には、明治の軍人である高堂伊太郎の影が不気味に蠢いている。浜野は高堂という神に知らず操られていく。披露宴は神事、神事を采配する者は神職だからだ。

 高堂の天皇への忠誠、高堂という軍神に見守られることで成立する婚姻、神道をめぐる新旧のせめぎあい、すべてを統べるように日本の中心に存在する皇居。浜野の“成長”には、近代以降の日本がなだれ込んでいる。

 こういう奇抜な発想がどこからわくのかと、古谷田の作品を読むといつも思う。

 生まれ変わる雑誌があれば、姿を消す雑誌もある。作家・西崎憲が編集長を務める文学ムック『たべるのがおそい』が今回の第7号をもって終刊した。地方の小書肆発行のムックながら、芥川賞候補作を2作も出すなど、中央「文壇」に及ぼした影響は小さくない。

 作家の津原泰水と幻冬舎に生じたトラブルの波紋が収まらない。展開次第では、次回、検証したい。

 文芸評論家の加藤典洋が死去した。冥福を祈る。

新潮社 週刊新潮
2019年6月6日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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