「やりがい」最下位の日本人、社員の幸福感と業績が同時に上がる職場とは?

レビュー

3
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

幸せな職場の経営学

『幸せな職場の経営学』

著者
前野 隆司 [著]
出版社
小学館
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784093886901
発売日
2019/05/30
価格
1,540円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

「やりがい」最下位の日本人、社員の幸福感と業績が同時に上がる職場とは?

[レビュアー] 前野隆司(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授)


前野隆司

 最近まで、AIに職を奪われるのは単純作業の仕事のみ、と言われていました。しかし、ディープラーニング技術が発達したことで、今後は単純作業だけでなく、高度な知識や大量のデータを扱う仕事も安泰と言えなくなります。
 例えば、医師。医師の画像認識能力は、AIの画像認識能力に取って代わられるでしょう。治療法や薬に関する膨大な臨床データを瞬時に解析する能力もAIにかないません。
 では、医師という仕事がなくなるのでしょうか?
 そうではありません。データやカルテの解析はAIに任せるようになったとしても、医師には、患者やその家族の声に耳を傾け、データに表れないものを見つける仕事が求められるようになります。医師が不要になるのではなく、仕事の質が変わるのです。
 また、そんな仕事にこそ、人は「やりがい」「生きがい」を見つけられるはずです。
 つまり、AIに奪われない仕事とは、「誰にでも代われるもの」ではなく、その人らしい人間性や個性を発揮できる仕事です。
 しかし今、仕事にやりがいを感じている人はどのくらいいるでしょうか?
 世界で3億人以上が利用するSNS「Linkedin」が26カ国のユーザーを対象に実施した2014年のアンケートでは、「仕事にやりがいを感じていますか?」という質問で、日本のユーザーは全26カ国中26位、最下位でした。
 今の日本で、仕事にやりがいを感じている人は決して多いと言えません。

 私自身、本当にやりたい仕事を見つけたのは50歳を過ぎてからでした。
 かつて脳やロボット、AIの研究をしていた頃も、やりがいを感じてはいました。
 しかし、ロボットの「心」の研究よりも、人の「心」のメカニズムを解明する方が大事だと思い、過去の研究や大規模調査を解析して「幸せになるための4つの因子(チャレンジ精神/感謝の気持ち/前向きさ/自分らしさ)」を明らかにしたのですが、それを見つけたときは「幸せのメカニズムを解明した!」と得意になり、「これぞ天職!」とも思いました。
 ですが、次のステップとして、これらの研究成果を使って人々を幸せにする実践的研究を始めたら、さらにもっと大きなやりがいを感じたのです。
 それが、50歳を過ぎた頃。
 だから、「やりたいことを見つけよう」とか「好きなことを仕事にしよう」なんて言っても、そう易々といかないことは私にもわかります。

 日本ではつい最近まで学力偏重型の教育が続き、いい学校を出ていい会社に入るのがゴールという考え方で、「生きがい」「やりがい」にフォーカスしてきませんでしたし、企業や組織でも、個人のやりがいにはほとんど関心を持ってきませんでした。
 しかし、仕事にやりがいを感じる従業員が、やりたいと思うことに挑戦しているチームが成果を出していることは、多数の調査で明らかになっています。
 最新刊『幸せな職場の経営学 「働きたくてたまらないチーム」の作り方』(小学館)でもご紹介していますが、昭和時代から続いた、いわゆるトップダウン式の企業は成功しないことは明らかで、まずは社員に可能な限りの裁量権を与え、働く場所・時間・休日などもそれぞれに任せて「幸福感」を高めると、成果は3割も上がるという研究結果もあるのです。

 今の日本全体に必要なのは、「何のために、それを行うのか?」という本質的な問いかけです。
 日本は戦後、多くのシステムや考え方を欧米から取り入れてきました。
 でも、欧米の中心思想にキリスト教という宗教があるのに対し、日本には中心軸がないまま、他国からパーツだけを取り入れたのです。
 戦後の高度成長期には、それでも良かったでしょう。
 欧米の自動車の良い部分を取り入れて、より良い自動車を作ろう。
 欧米の良い制度や法律を取り入れて、良い制度や法律を作ろう。
 国としての大きな全体ビジョンがなくても、部分を特化していくことによって成果を出してきたのです。
 しかし今、日本は長い停滞期から抜け出せずにいます。「何のために、それをするのか」という全体ビジョンがないまま、部分だけを進化させた結果、細かい作法や手順に囚われる側面が重視され過ぎてしまったように思うのです。
 組織でも個人でも、「何のために、それを行うのか?」「今、何が必要なのか?」という問いかけが重要になります。従来の作法や手順に囚われず、本質的な問いを行うことこそがイノベーションを生み出すのです。
 それは働く現場でも、とても重要なことです。リーダーが「何のために」というビジョンを持っていなければ、現場には何も伝わりませんし、モチベーションも上がりません。
 たとえば、「サービスで地域に貢献するために」「お客さんの笑顔を少しでも増やすために」など、その人なりの目標です。また、社員一人一人も、それぞれに「何のために」を心に描くことで、幸福感もやりがいもぐっと上がります。それはひいては業績の向上にも繋がるのです。

「誰かが変えてくれる」「誰かが気づいてくれる」では何も変わりませんし、「やらされ感」を感じているうちは幸福度も上がりません。もちろん、教育面でもこうした問いが行われるべきだと思いますが、自分なりの答えを見つけるためには、あなた自身が探し続けるしかありません。

 私も50歳を過ぎて天職を見つけたと思いましたが、今や人生100年と言われる時代。57歳になった今の私も、まだその旅の途中なのかもしれません。
 子ども時代から100歳まで、「何をしたいのか?」「どう生きたいのか?」を問い続け、生き生きワクワクしながら挑戦していく。
 それこそがAI時代の幸せな働き方であり、幸せな生き方と言えるでしょう。

小学館
2019年9月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

小学館

  • このエントリーをはてなブックマークに追加