辻村深月×松坂桃李 対談 「ご縁」が繋ぐ、出会いと想い

対談・鼎談

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ツナグ 想い人の心得

『ツナグ 想い人の心得』

著者
辻村 深月 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103283232
発売日
2019/10/18
価格
1,650円(税込)

書籍情報:openBD

【『ツナグ 想い人の心得』刊行記念対談】辻村深月×松坂桃李 「ご縁」が繋ぐ、出会いと想い。

[文] 立花もも(ライター)


辻村深月さんと松坂桃李さん(写真:新潮社写真部)

人生で一度だけ、死者との再会をかなえてくれる使者をめぐる物語『ツナグ』。
9年ぶりの続編刊行に際し、主人公・歩美を映画で演じた松坂桃李さんと辻村深月さんに対談して頂きました。

 ***

辻村 私は、自分を運のいい作家だと思っていて、その理由の一つに『ツナグ』を松坂さんの映画初主演作品にしていただけたことがあるんです。どんな作品に出演されても、松坂さんのプロフィールを見ると、いまも必ず『ツナグ』のタイトルが最初に書かれているでしょう?

松坂 絶対に書かれますね。

辻村 松坂さんにとってターニングポイントとなるような大事な時期を歩美にわけていただけたことが光栄ですし、その後、演じる役の幅を広げてどんどん活躍されていくのを観るたび、一人の俳優さんを時間の経過とともに追っていく楽しみを感じます。最近は声優のお仕事もされていますよね。『パディントン』の吹き替えをされていたり、松坂さん目当てじゃなかった作品で松坂さんに出会う、という機会も最近とても増えています。

松坂 恐縮です……。僕にとっても映画『ツナグ』は特別で、過去最高に緊張した作品なんですよ。初主演というだけでも浮足立つのに、ばあちゃんは樹木希林さん、大伯父は仲代達矢さん、呼び出す死者が八千草薫さんと、俳優界のレジェンドに囲まれての撮影でしたから。

辻村 一本の映画でそれだけの方々と共演する機会はなかなかないですよね(笑)。

松坂 そうなんです。もう二度とないであろう僥倖でした。だから今回、続編を読ませていただけてとても嬉しかった。あっという間に読み終わったんですが、第一話はちょっと笑ってしまって……。

辻村 あははは! 笑いましたか。

松坂 はい。だって、語り手が特撮ヒーローを務める俳優じゃないですか。

辻村 はい。もちろん、松坂さんの影響で生まれた設定です。というのも、私の妹は『侍戦隊シンケンジャー』が大好きで、歩美役が松坂さんに決まったときは「殿じゃん!」と大騒ぎだったんですよ。撮影現場の見学に行く前は、妹セレクトのおすすめ回を拝見し、映画が完成する頃には全話観終わっていました。

松坂 そんなにちゃんと観ていてくださったとは……!

辻村 以来、特撮そのものにもハマってしまい、最近は子供が年頃になってきたこともあり、家族全員で特撮ファン。笑ってくださったのなら、書いた甲斐がありました(笑)。
松坂 ただ、導入でくすりとした後に、歩美ではない人がツナグとして登場するじゃないですか。「え? 歩美どこ行った?」って焦り、こういうことが起きてるのかな、いやもしかしたら、とあれこれ想像しながらページをめくっていくと、意外なオチが用意されていて……。前作のファンはよりいっそう嬉しくなるだろうし、僕はもう一度、前作を読み返したくなりました。そしてラストまで辿りつくと、一冊の台本を読み終わったような達成感があり、撮影現場の記憶が蘇ってきたりもして。

辻村 へえ~!

松坂 スタジオで撮影していたとき、ものすごいイビキが聞こえてきて、監督が「誰だ!」って怒ったら希林さんが寝ていたなとか、休憩中に希林さんのくれたお煎餅を食べて「ぬれ煎餅ですか?」って聞いたら「湿気てるだけよ」って言われたなとか。自宅にあったお煎餅を持ってきて配ってらっしゃったんですよね(笑)。あとは、希林さんが現場でもばあちゃんでいてくれたから、原作から感じた歩美のおばあちゃん子という印象を自然に出すことができたよなあ、とか。

辻村 ああ、それで。劇中でおばあちゃんが、佐藤隆太さん演じる依頼人の土谷さんにお菓子をあげるシーンがあるんですよね。原作にも脚本にもなかったはずなのにと印象に残っていたんですが、きっと樹木さんのふだんのお姿から生まれた演出だったんですね。

松坂 そうです。映画が公開されたのは七年も前のことなのに、そうした風景がまざまざと浮かび上がってきて、「キャストは誰だろう」「このシーンはきっとこう撮るだろうな」ということだけでなく、「この映画はどうプロモーションしていこう」とすでに撮り終わったかのような気分にさえなりました。

老人が得た初めての感情に涙する


辻村深月さん

辻村 とくに好きだったエピソードなどはありますか?

松坂 二話の「歴史研究の心得」ですね。依頼人の鮫川老人がまず魅力的で、文字だけなのに、顔の輪郭や表情が手にとるようにわかったんです。よくしゃべって、押しが強くて、とっつきにくいんだけど憎めないおっちゃん、みたいな。いますよね、こういう人。

辻村 いますね(笑)。依頼の相談をしにきたのに歩美の都合を聞かずにまずあんみつを買いに行っちゃったりとか。歩美が遠慮しようとしても「約束しましたね」って押し切っちゃう。

松坂 一方的に言ってただけで約束じゃないのに(笑)。で、その鮫川老人が会いたいのが、地元の英雄として伝わる、戦国時代の上川岳満。生涯をかけて岳満の研究をしていた彼が、どうしても解明できない謎の答えを本人から聞きたいという、壮大なロマンにときめきました。……あの、これはどこまでが史実なんですか?

辻村 そう思ってもらえたなら大成功!実は、ほとんどフィクションなんです。

松坂 えっ! モデルになった人とかは。

辻村 いません。領主が名君そうな土地がいいなと思って「よし、上杉謙信にしよう」と新潟に決め、岳満の残したとされる和歌も、専門家の方にご相談しながらつくっていただきました。

松坂 そこなんですよ。和歌と上杉謙信の名前が出てくることによって、リアリティが増しているんですよね。

辻村 続編を書くとなったとき、絶対に書きたかったのが「歴史上の人物に会いたいと願う依頼人」だったんです。映画のプロモーションのとき、キャストの方々が毎回、歴史上の人物なら誰に会いたいかと聞かれているのを見て、その選択肢があるのかと初めて気がつきました。とはいえ本当に会うとなったら、同じ日本語でも時代によって語る言葉は違うでしょうし、そもそも面識のない現代の人間にどういう理由なら会ってくれるのだろう、という疑問が湧き、それを起点に細部を組み立てていきました。

松坂 対面して知る真実の内容についても、またよくて。いかに英雄と言われた人でも所詮は人間だから、まわりが勝手につくりあげた人物像であることも多いだろうし、本当のことというのは意外とこういうものなんだろうな、と妙にすとんと腑に落ちました。

辻村 「歴史研究の心得」と銘打つからには、後世の人たちがエゴを載せてロマンに仕立てあげてしまう面も、ちゃんと描きたかったんです。「歴史」も語ることで誰かの主観がどうしても入る。たとえがっかりするようなものだったとしても、語られていく過程で起きるのはそういうことなのだと。

松坂 僕はがっかりしなかったですよ。むしろちょっと、泣けた。生涯を賭して研究を重ねてきたことの結果が、八十歳を過ぎてなお、うまく言葉にできないほどの興奮と感情を味わうことだった、っていうのがもうたまらなくて。『なんでも鑑定団』を観ていると、ときどき、鑑定士のおじいさんがあまりに予期しなかったお宝に出会って泣く、みたいな場面があるじゃないですか。その道何十年もの大ベテランで、酸いも甘いも噛み分けてきたはずの人なのに、たった一つの出会いがもたらす感情が、理屈や経験を超えてしまう。その瞬間を目の当たりにしたとき、僕も同じように胸が詰まる。それと同じものを第二話からは感じました。

新潮社 波
2019年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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