【ニューエンタメ書評】「十二国記」シリーズ最新作『白銀の墟 玄の月』(全四巻)、恩田陸『祝祭と予感』ほか

レビュー

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  • 白銀の墟 玄の月 第一巻
  • タスキメシ 箱根
  • 彼方のゴールド
  • 祝祭と予感
  • ツナグ 想い人の心得

書籍情報:openBD

エンタメ書評

[レビュアー] 大矢博子(書評家)

寒さも忘れる熱い読書のお祭り、シリーズ作品の楽しみ方をお届けします。

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 祭りだわっしょい! SNSも書店の店頭も沸き返っている。いやはや、今月はもうこれから始めるしかないだろう。なんせ十八年ぶりの長編なんだから。小野不由美の「十二国記」シリーズ最新作『白銀の墟 玄の月』(全四巻・新潮文庫)である。

 十月と十一月にそれぞれ二巻ずつ刊行されたが、十月の発売日には猛烈な台風十九号が日本を襲い、気象庁が命を守る行動をとるよう呼びかける異常事態となった。そのときSNSでは「これが蝕か」「早く買いたいが蝕ならしょうがない」「行方不明の王がまさかお出ましに」と大騒ぎになったことは記憶に新しい。

 蝕というのは十二国記の世界での天変地異のことで、これが起きるとき我々の現実世界と十二国の世界がつながるとされている。したがって前述のような発言が出てきたわけだが──君たち何を言ってるんだ。ちょっと落ち着け。まず台風に備えろ。でもわかる。よくわかるぞその気持ち。だって十八年ぶりだもの! ここだけの話、戴国の王が戻ってくるのと紅天女が決まるのとどっちが早いか、心の中で賭けてたよ! いや、まだ戻ってくるかどうかは言えないけども。

 ということで『白銀の墟 玄の月』だ。前作『黄昏の岸 暁の天』は、反乱軍の鎮圧に赴いた戴国の王・驍宗と麒麟の泰麒がともに行方不明になり、将軍・劉李斎が王と麒麟を探すという物語だった。麒麟の方は一応の決着を見るが、王は見つからないままだ。

 その王を探すのが『白銀の墟 玄の月』である。生死すらわからなくなって六年(体感としては十八年)、自らが玉座に据えた王の無事を信じる泰麒と、荒廃した国に心を痛める李斎を中心に物語は進む。詳細を書きたい。だが書けない。十八年のブランクをものともせずさらにスケールアップしているということと、今回特に女性の哀しみと庶民の苦しみに筆が割かれているということにとどめておく。上に立つ者は彼らのために何をするのか。何ができるのか。諦めない者たちの姿が読者の心を奮い立たせるシリーズだ。

 ということで、今回は人気作品の続編やシリーズ最新刊を中心に紹介するぞ。

 額賀澪『タスキメシ 箱根』(小学館)は『タスキメシ』(小学館文庫)の七年後が舞台。高校の陸上部だった眞家早馬は、大ケガで部から離れているとき料理に出会い、スポーツ栄養学を専攻することを決意──というのが前作の大筋だった。本書はその早馬が紫峰大学駅伝部のコーチアシスタント兼栄養管理として入寮する場面から始まる。

 箱根駅伝を走りたいと思いはするものの、紫峰大ははっきり言って弱小チーム。だが、かつて挫折を経験した早馬はそんな彼らに寄り添い、少しずつチームは結束していく。

 前作同様、読みどころは美味しそうな料理! アスリートの体を作るために早馬が工夫する料理の数々は、そのまま自宅で作りたくなるものばかりだ。料理ばかりではない。駅伝の描写も臨場感たっぷりで思わず引き込まれた。ランナーの息遣い、背後から迫る風圧や足音といったものを、読みながら直に感じているように思えたほどだ。

 印象的なのは、スポーツ小説にあるまじき「努力は、裏切る。ここぞってところで裏切る」という痛烈な言葉である。スポーツには必ず勝者と敗者がいる。どんなに努力したって負けることも、ケガをすることもある。前作から引き続き、著者は「努力に裏切られたときどうするか」を読者に問いかけているのだ。

 そんなアスリートたちを取材する側を描いたのが、大崎梢『彼方のゴールド』(文藝春秋)である。『クローバー・レイン』(ポプラ文庫)、『プリティが多すぎる』『スクープのたまご』(ともに文春文庫)に続く、老舗出版社・千石社を舞台にしたシリーズの最新刊だ。

 これまで文芸、少女ファッション誌、週刊誌の各編集部を舞台にしてきたが、今回はスポーツ情報誌。運動といえば子どもの頃にスイミングに通っていた程度という目黒明日香がスポーツ情報誌「Gold」編集部に配属になる。右も左もわからないまま、先輩について今日はバドミントン、今日は野球、今日はバスケと取材を続けるうち、アスリートに課せられたものに気づいていく……という物語である。

 興味も知識もない部署に配属になるという点では『プリティが多すぎる』『スクープのたまご』と同じ設定だが、前二作が業界情報とともに主人公の成長をメインに置いていたのに対し、本書ではアスリートとそれを応援する人々に筆を割いているのが大きな違いだ。

 勝てないかもしれない勝負、短い全盛期。そんな過酷な場所に身を置いて、彼らは何を得るのか。自分の人生とは直接関係のない人を、なぜ我が事のように応援し、その結果に一喜一憂するのか。とある登場人物が言った「心から応援できる人がいるって幸せだね」という言葉が胸に染み渡る。スポーツに限らず「推し」のいる人に是非読んでほしい。

 戦うのはアスリートだけではない。ピアニストの戦いを描いて本屋大賞と直木賞をW受賞し、映画化もされた恩田陸『蜜蜂と遠雷』(上下巻・幻冬舎文庫)のスピンオフ短編集が出た。『祝祭と予感』(幻冬舎)だ。第一話は、コンテスト入賞者ツアーの合間に亜夜とマサルと塵が恩師の墓参りをする「祝祭と掃苔」。作中で亜夜が塵のことを「風間塵」とフルネームで呼んでいるのを読んで、ああ『蜜蜂と遠雷』でもそうだった、と一気にあの世界に引き戻された。

 コンテストの審査員だったナサニエルと三枝子の若き日の物語や、作曲家・菱沼が課題曲「春と修羅」を作るきっかけになった出来事、塵と恩師ホフマンとの出会いを描いた話などなど、『蜜蜂と遠雷』ファンにはとても嬉しい宝箱のようなプレゼントだ。

 そうそう、辻村深月『ツナグ』(新潮文庫)も映画になったっけ。主演の松坂桃李さんが実に麗しかった。こちらの続編は『ツナグ 想い人の心得』(新潮社)だ。生きている人と死んだ人を一度だけ再会させてくれる使者が帰ってきたぞ。脳内に松坂桃李をスタンバイさせてページを開いたら、え、ツナグが少女になってる……?

 いやいや大丈夫。ちゃんと彼が登場します。特に第一話は前作『ツナグ』を読んでいる人なら、途中であることに気づくはず。気づいた瞬間、切なさが倍増する。

 前作は死者と生者の再会のドラマがメインで、ツナグ自身の話は最終話になってようやく語られた。翻って今回は、再会ドラマと並行してツナグ自身の事情や物語も序盤から描かれる。本書では第二話以降、歴史上の人物と会いたい研究者や娘と会いたい母親など複数の再会が描かれるが、それがツナグ本人に与える影響をどうか汲み取っていただきたい。そして終盤、ツナグの身近な人が死んだとき……。切なさの中にも温かさと希望を残す物語である。

 歴史物のシリーズからは安部龍太郎『十三の海鳴り』(集英社)を。『道誉と正成』『義貞の旗』(ともに集英社文庫)に続く安部龍太郎版太平記の三作目である。

 舞台は今の青森県、十三湊。鎌倉時代、日本海に開けた海運都市として栄えたこの町を治めていたのは、幕府から蝦夷管領の地位を与えられた安藤氏だった。だが家中での勢力争いや蝦夷の蜂起により、いわゆる「安藤氏の乱」が起きる。この乱が鎌倉幕府そのものを揺るがしていき……。

 この安部版太平記三作の特徴は、経済という点から南北朝時代を描いていることだ。具体的には、農本主義から貨幣経済の重商主義への変化である。だからこそ交易都市が栄え、その十三湊での内紛が鎌倉幕府の屋台骨を揺るがしたのだということが、実によくわかる。誰と誰が戦ったというだけの話ではなく、この時代、この国を動かしていたものを俯瞰できる作品である。

 本書の主人公、安藤新九郎はシリーズの前二作にも少しだけ登場する。時代的には本書の方が先なので、前二作での新九郎は本書のその後の姿ということになる。そこにも注目してお読みいただければと思う。

 ここまでのところ、この『十三の海鳴り』と大崎梢『彼方のゴールド』は単品としても成立しているが、他の作品は既刊の内容を踏まえていたり既刊のネタバレが含まれていたりするので、刊行順に読むことをお薦めする。

 最後に、シリーズは最初から読みたいという人向けに注目の新シリーズを。中島要『大江戸少女カゲキ団(一)』(ハルキ文庫)である。

 江戸時代中期。役者になりたいのに女だからというだけで道が閉ざされる芹と、女はかくあるべしという親の押し付けに爆発寸前の才。ひょんなことから、才の幼馴染の紅と戯作好きの仁を加えた四人で、娘だけの芝居をやることに……!

 魅力的なキャラで織りなす江戸版宝塚、あるいは大江戸部活小説、とでも言えばいいだろうか。軽妙でコミカルな筆致はとても読みやすく楽しいが、実は根底にあるのは女であるがゆえに受ける抑圧だ。

 今よりずっと、女のあるべき形が決められていた時代。彼女たちは「やりたいことをやる」という方法で反旗を翻す。実に痛快。と同時に少し切ない。なぜなら彼女たちはそれを、正体を隠してやらねばならないのだから。

 本書はまだ一巻、ようやくチームが結成され、はじめの一歩を踏み出したところだ。このカゲキ団(過激でも歌劇でもないぞ)がこれからどうなるか。四人それぞれにほのめかされた家庭の事情も、きっと今後物語にかかわってくるのだろう。楽しみなシリーズの開幕である。今から二巻が待ち遠しい。

角川春樹事務所 ランティエ
2020年1月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

角川春樹事務所

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